第122話 冬の女子の謎の魅力

 正月が過ぎると休みもあっという間になくなり、今年初の登校日がやってきた。

 冬休みは短過ぎると思う。

 冬『休み』って言うくらいだから、冬の期間休ませて来ればいいのに、と何度思った事だろう。この寒い中、歩いて学校まで行かなければならないなんて、世の学生は大変だ。

 指先は冷たく、吹きつける冷たい風は身体を刺す様な痛みを催す。最早拷問だ。

 道を歩く学生たちも、コートを着たり、マフラーをつけたりしている。女子はタイツを履いたりもしていた。

 そんな学生たちを、俺は高橋と教室から高みの見物をしていた。


 「俺、毎年疑問に思うんだけどさ」


 高橋は外をぼーっと眺めながら口を開いた。


 「冬の女子ってかわいくね?」


 「わかる。すっげーわかる」


 なぜかはわからないが、冬の女の子は魅力的に見えてしまう。

 ほんと、なんでなんだろう。特に変わった事はしてないはずなのに、冬っていう季節なだけで補正がかかっているように感じる。防寒具のせいか?


 「お前ら…またやってるのか…」


 「おっ、九十九きゅん」


 「やめろ気持ち悪い」


 後ろから呆れながら声をかけてきたのは九十九だった。ダッフルコートを着ていて、すごく暖かそうだ。

 こいつ、ダッフルコート似合ってるな。なんで俺が着ると微妙な仕上がりになるんだろう。顔か?やっぱり顔なのか?!


 「…んで、今度は何話してたんだ?」


 「冬の女子はどうしてかわいく見えるのかについて」


 「またしょうもない事を…」


 そう言って九十九はため息を吐いた。

 うるせぇ。しょうもなくないだろ。論文書いてやろうか?原稿用紙三枚分で書いてやろうか?


 「…やっぱ防寒具か?」


 「真面目な顔して何言ってんだお前」


 今まで黙っていた高橋が唐突にしゃべった。

 なんか静かだと思ったら、結構真面目に考えてたんかい。


 「それはあるかもな」


 「お前ものるんかい」


 珍しく九十九が男っぽい話題にのってきた。

 おい待て、俺を置いてくな。俺をツッコミ役にするな。よしわかった。俺はもう、つっこまないからな。


 「防寒具ねぇ…俺も最初に思ったんだけど、いまいち理由がわからんのだよなぁ…」


 「モコモコだからじゃないか?」


 九十九がそんな事を言った。


 「モコモコ?」


 「ロコモコ?」


 「そういうのいいから」


 話題にはのってくるが、ボケにはのってくれない。それが九十九クオリティ。


 「どゆこと?」


 「動物みたいでかわいい、みたいな感じじゃないか?」


 「ん?」


 「あー…なるほどな」


 「え?ちょっと待って、俺を置いてかないで?」


 俺はなんとなくわかったが、高橋はピンと来なかったらしく、なにやら騒いでいる。

 とりあえず、喚く高橋を九十九と俺は無視を決め込み、さっきの内容について考える。

 なるほどな。猫とか犬がかわいいと思うのに似た様な感じか。なんとなく納得がいった気がする。


 「マフラーつけてたりするとかわいいよな」


 「たしかに」


 「ちょっと待って!俺を置いてかないで!」


 「うるせぇ」


 いつまで喚いているんだお前は。

 そんな事を思っていると、後ろから男子ではない声が聞こえてきた。


 「ねぇ、何盛り上がってるの?」


 その声に、俺たち三人は一斉に振り返る。

 そして三人とも黙ってしまった。


 「え、何、どったの?」


 そこにいたのは、教室に入ってきたばかりなのか、ダッフルコートにマフラー、手袋と、防寒対策バッチリの美波がいた。

 外が寒かったからだろう、頬が少し赤く染まっていた。

 俺たち三人は黙って目を一度合わせて、もう一度美波の方を見た。


 「かわいい」


 「かわいいな」


 「あぁ…そういうことか…」


 「ちょちょ、何?!なんなの?!」


 若干顔を赤くして、慌てふためく美波。

 そんな美波をよそに、俺たちは謎に悟り始め、無言で会話を始める。

 そして俺は思った。

 これ、止めるやつがいねぇとダメだな。

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