第119話 元気な挨拶をエナドリと共に

 「あけまして、おめでとう!」


 一月一日、午前八時。

 大晦日は過ぎ去り、正月がやってきた。

 新しい年の幕開けである。

 と言っても、普通に考えれば深夜なので、俺たちにやる事はない。それなのに、睡眠を取った陽葵は頭がスッキリしているのか、やたら元気だった。


 「はいはいおめでとう。じゃ、おやすみ」


 「ちょっと!寝ちゃだめでしょ!」


 「なんでだよ…」


 昨日は父さんと雑談しながら、高橋とチャットをしながらソシャゲのイベントを周回していた。そう、この時間まで。

 父さんは酒を飲みながらだったから、二時くらいに寝落ちしていた。イビキがとにかくうるさかった。

 そう言うわけで、俺は今、非常に眠いのだ。


 「ねぇ〜毎年恒例の初詣の時間だよ?朝香呼びに行こうよ〜」


 「…毎年朝香が起きてるとは限らないだろ?」


 「もう準備できてるってさ」


 そう言って陽葵は伊織とのメッセージのやり取りを見せてくる。

 若者は元気だなぁ…俺、父さんの気持ちがわかったよ…。


 「…陽葵…俺はもう、だめだ…後は…頼んだ…」


 「いいから起きて」


 「ふぇぇ…」


 鬼ぃ…。




 「やっほー!朝香!」


 「…うぃす…」


 陽葵に無理矢理連れられて伊織の家に向かうと、伊織は玄関前で待っていた。


 「あけおめ〜!」


 「あ、うん。あけましておめでとう…えっと…旭?大丈夫?」


 「……………………え…?なんか言った…?」


 「ちょっと陽葵?!これ大丈夫なの?!」


 伊織の慌てた様な声が耳に響く。

 もう、何言ってるか聞き取る気になれねぇや。

 わぁ、旭、朝日が眩しい〜!

 …マジで頭おかしくなってんじゃねぇのか?なるほど、これが正月テンションか…恐ろしいな…はっはっは!


 「大丈夫!エナドリ飲ませれば治るから!」


 「…あまり無理させない方がいいんじゃない…?」


 「旭?大丈夫でしょ?」


 「あー焼肉食いてぇ〜」


 「大丈夫だってさ!」


 「…まぁ、旭だしね。いつも通りか…」


 マジ眠い。

 朝日がマジで目に染みるぅ〜…。




 「あーしゅわしゅわうめぇ。お目目スッキリ!」


 「ほらね?」


 「…いつか体壊しちゃいそう…」


 やっぱニョンスターエナジーは最強だわ。ニョンスターは万病にも効くって言うしね。ゲームのお供に、ニョンスター。登校前に、ニョンスター。


 「…それ、おいしいの…?」


 「ん?ニョンスター?」


 「うん」


 伊織は物珍しそうに、俺の手にあるニョンスターを見ている。


 「うまいよ」


 「おいしくないからやめた方がいいよ」


 「…どっち?」


 俺と反対の意見を言ったのは陽葵だった。

 貴様、ニョンスターをおいしくないだと?


 「なんか、薬品みたいな味するんだもん。体に悪そうな味」


 「体に悪そうなものは大体おいしいだろ」


 「否定はしない。でも、それはおいしくない」


 馬鹿にはこの素晴らしさがわからんのか。

 まぁ、ちょっと個性的な味がするのは確かだけど。


 「気になるなら飲んでみる?」


 「へ?いいの?」


 「もちもち」


 そう言って、俺は伊織にニョンスターの缶を手渡す。

 しかし、伊織はそれを眺めるだけで全く口をつける事はなかった。


 「…」


 「…別に無理して飲まなくていいぞ?」


 「あっ、ち、ちがうの!その…」


 「ん?」


 「…か、間接…き…す…」


 そう、小声で言う伊織は頬を赤らめてモジモジしていた。

 これはヤベェ…新年からいいもん見た気がするわ。

 間接キスか、小さい頃から一緒だったし、今更な気もするけどな。


 「別に幼馴染だし、昔からやってたから今更だろ?」


 「そ、それはそうなんだけど!な、なんていうか…改めて意識すると、恥ずかしくなっちゃって…」


 「お、おう」


 ちょっとだけドキッとしてしまった。

 それって、俺を男として認識し始めたからだよな…?

 んー、ムズムズする。嬉しかったり恥ずかしかったり、よくわからない感情がでている。


 「あの〜、あんたら、あたしの前でイチャイチャしないでくれない?」


 そんな感情を不機嫌そうな声で取っ払ったのは陽葵だった。

 

 「い、イチャイチャなんかしてない!」


 「え〜?してたよ朝香ちゃ〜ん。あたしに内緒で結構進んでるみたいじゃ〜ん?」


 「な、内緒って、そんな事…」


 「朝香はあたしのなんだから!」


 「ちょ、ちょっと?!」


 陽葵は伊織に抱きついて、俺に歯をいーっと出してきた。

 …なんだろう、この尊い感じ…俺はここにいてもいいのだろうか?邪魔じゃない?おじさん、あっち行ってようか?

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