第117話 娘の好感度

 十二月三十一日、大晦日。

 世で言う、一年最後の日。

 別に一年の最後の日だからと言って、地球が爆発するわけではない。普通に一日が過ぎるだけだ。もっと言えば、十二月最後の日なだけだ。

 それなのに、テレビでもSNSでも、まるで一大イベントの様な騒ぎを見せている。

 なんでそんなに盛り上がってるんだ?

 こういう事を考えていると、面白くないやつと思われてもしょうがない事なのだろう。

 特別感を感じないわけではないが、いかんせん、いまいち盛り上がる事ができないでいる。


 「うー」


 「あー」


 「なんなんだあんたらは」


 お昼が過ぎた頃。

 炬燵に入ってぐでーっとしている俺と陽葵に呆れているのは、台所の守護神、母さん。

 ちなみに、陽葵と俺が炬燵でぐでっているのは、毎年のお馴染みの光景である。


 「あんたら、もうちょっと高校生らしくはしゃぎなさいよ」


 そんな事言われてもなぁ…文句なら炬燵に言って欲しい。

 出れないし体力奪われるしあったかいし…もはや呪術だよ。呪いの装備だよ。考えたやつは天才だよ。ありがとう。


 「えー…だりぃ…」


 「後でね〜」


 「だめだこれ」


 そう言って諦めた母さんは台所の方に向かって行った。

 大晦日なんて、どこの家でもこんなもんだろう。

 炬燵に入って、みかん食べて、飯食って、寝る。後はテレビで紅と白に分かれた歌の合戦見たり、笑ったらケツをしばかれるやつ見たりするだけだろう。


 「陽葵、父さんとゲームしないか?」


 母さんと入れ替わりで出現したのは父さんだった。

 久しぶりに家でゆっくりできて、娘といる時間が増えて、若干テンションが上がっているのだろう。

 …あれ?俺は?息子は?


 「なんでもいいぞ〜!」


 「えー…お父さん、弱いからつまんないもん」


 「ぐはぁっ!」


 ぱ、パパさん…。

 まぁ、自称ガチゲーマーの俺といつもやってるから、ただのおじさんじゃ物足りないんだろう。


 「んじゃ陽葵、暇だから俺とやろうぜ」


 「しょうがないなぁ…」


 「ぐふぅ…」


 ぱ、パパぁ…。

 うっ…目から水が…。

 …しょうがない。俺が一肌脱ぎますか。


 「ほらよ、受け取れ」


 そう言って、俺は父さんにコントローラーを投げ渡す。

 受け取った父さんは「なんだこいつ?」みたいな顔で俺を見てくる。むかつくな。殴るぞ。


 「パーティーゲームなら大丈夫だろ」


 「旭…お前…良いやつだな…」


 「うるせぇしばくぞ」


 「なんで?!」


 余計な事言うからだ、馬鹿野郎。




 「ちょ…俺休憩するわ…」


 そう言って、父さんはソファーに横になって目を揉み始めた。


 「おいおい、まだ三十分しか経ってねぇぞ?」


 「三十分も経ったんだよ」


 「軟弱者め」


 「若さって怖い」


 おじさんにはなりたくないねぇ。

 三十分って…短過ぎてやった気にならねぇよ。


 「どうする?陽葵」


 「じゃあ…協力プレイできるやつがいい」


 「…マリモブラボーズ?」


 「いいね」


 そう言って、陽葵はゲームのソフトを入れ替える。


 「…え?お前らまだゲームするの?」


 「おん」


 「目疲れないのか?」


 「若いからな」


 「貴様、その口を縫い付けてやろうか?!」


 なんか喚いてる父さんを無視して、俺はテレビに目を向ける。

 すると、台所の方から声がしてきた。


 「三時には一回休憩しなよー」


 「へいへーい」


 「はーい」


 そう返事をすると、なぜか陽葵が隣に移動してきた。

 ちょ、邪魔。炬燵狭いんですけど?


 「邪魔、狭い」


 「うるさい」


 「…はい」


 …まぁ、別にいいんだけどね?


 「お前ら仲いいよなぁ」


 「まぁ、旭だしね〜」


 おい、俺だからなんだよ。


 「おい旭、そこ変われ」


 「いいよ」


 「ちょっとお父さん、怒るよ」


 「…はい」


 陽葵ちゃん…パパがかわいそうになってきたよ…。

 父さんからじゃだめか…ならば…。


 「父さん、変わってくれ」


 「おっ!いいぞ!」


 「あさひく〜ん?」


 「あ、はい、すみません…」


 陽葵は、笑顔でシャーペンを俺に向けていた。

 どっから取り出したんだよ。不思議なポッケでもあるのか?

 てか、なんでそんなに父さんを拒否るんだよ。ちょっと隣に座るだけだろ?…あ、嫌だな、ごめんな陽葵。俺が間違ってたよ。

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