第108話 返事を返事として返事とする

 「そろそろお開きですかね〜」


 時計を見ると、もう午後の九時をを過ぎていた。


 「旭〜、今日泊まってっていい〜?」


 「テント用意してやろうか?」


 「酷ぇ…」


 そう言いながら、高橋が怠そうに荷物をまとめ始めた。

 それを見た他のみんなも荷物をまとめ、帰る準備をする。


 「んじゃ、陽葵は留守番よろしく〜。俺、みんなの事送ってくわ」


 「えー」


 納得がいかない様子の陽葵。

 さすがに暗くて危ないから大人しくしてろ。


 「おい男ども。家の方角が同じ女子は誰だ?」


 「知らん」


 「知らない」


 「知らね」


 使えねぇ…。




 結局、それぞれ家の位置を確認して、佐藤、高橋、九十九たちと家が同じ方向、もしくは家が近い女子を送って行く事になった。

 そういうわけで、俺は伊織を家まで送っている。

 …いや、伊織の家はほんとに近い。

 なんなら送らなくてもいいくらいなんだけど…一応、ね?


 「なんか、いつもより今年は賑やかだったね」


 「あれは賑やかと言うより、うるさいの方が正しいんじゃないか?」


 「もう…そんな事言わないの」


 「さーせん」


 いつも通りの会話。

 俺が適当言って、伊織がそれにつっこむか、呆れる会話。

 半年くらい前の俺なら想像も出来なかっただろうな…。

 まさか、仲直りできるとは思ってもいなかった。

 幼馴染の縁の自然消滅なんて、普通に聞く話だから。

 一年経てば忘れて、ただの他人になるんだろうなと思っていた。

 幼馴染って、そんなもんだと思ってた。

 友達とは少し違い、家が近かったり、昔から交流があったりと、本当にそれだけの関係なのだから。

 たったそれだけの関係が今でも続いている。

 本当に、幼馴染って不思議な関係だと思う。


 「陽葵はもうちょっと落ち着いて欲しいけどね」


 「もう無理だろ、あれは」


 「みんなの前で抱きついてきて…恥ずかしいんだから…」


 「とか言いながら、伊織も満更でもなさそうな顔してたけどね」


 「…うるさいバカ」


 「うへぇ」


 でも、俺たちはもう、ただの幼馴染ではなくなっている。


 『…私は、旭が好き!』


 俺は、伊織に告白をされている。

 そして俺は、告白の返事を保留にしている。

 …あれ?俺、最低じゃね?

 でも、好きなのかわからないのに付き合っても、その関係が上手く行くはずもないし、何より、伊織に対して失礼すぎる。

 最低でもいい。それでも、誠意ある返事をしなければならない。

 それが、告白を受けている俺の責任だ。


 「旭?どうしたの?ぼーっとしてるけど…」


 「ん…あぁ、ちょっと考え事してたわ」


 「大丈夫?」


 「大丈夫大丈夫」


 すっかり自分の世界に入り込んでいたらしく、伊織に心配されてしまった。


 「…ごめん、伊織…」


 「…どうしたの?」


 「告白の件、せっかく伊織は言葉にして伝えてくれたのに、俺はまだ、何も言えなくて…」


 「…」


 告白の返事を保留されるのって、どんな気持ちなんだろう。気が気じゃないんじゃないか?気が狂ってしまいそうなんじゃないか?

 そう考えていると、伊織に対して、物凄い罪悪感を感じる。

 それでも、やはり自分で答えを出して伝えるのが正解なんだろう、とか色々考えてしまって、頭の中がぐちゃぐちゃになる。


 「…いいよ、大丈夫」


 「…え?」


 「元はと言えば、私が悪いんだから…。旭に酷い事言って、傷つけて…」


 「そんなこと…」


 「あるよ」


 俺の言葉を遮って、伊織はそう言った。


 「そんなことあるよ…旭の優しさに、私は甘えてただけなんだから…」


 「…」


 「旭は優しいからね…きっと告白の返事だって、今も真剣に考えてくれてるんでしょ?好きかわからないのに私と付き合っても、私に対して失礼だ、とか考えてるんじゃない?」


 「お、おう…」


 なぜわかったし…。


 「私は…こんな私に対して、真剣に考えてくれてて、それだけで嬉しいよ…」


 「伊織…」


 「だからさ…早く答えを出さなきゃ、とか、考えなくていいよ?」


 「…いいのか?」


 「うん…」


 伊織は、優しく微笑んで頷いた。


 「返事はゆっくりでいいよ…だからさ、旭の答えが出たら…どんな答えでも教えて…?それで、もし旭が私を…その…す、好きって思ってくれたなら…その時は、旭からもう一回、告白して…くれないかな…?」


 そう言って、伊織は顔を赤くした。


 「…わかった、約束する」


 「…ありがと」


 伊織がそう言ってくれたおかげで、気持ちが楽になった。

 ありがとう、はこっちのセリフだわ…。

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