第104話 楽しそうに

 「クリスマスのお菓子か…知育菓子?」


 「知育菓子…?」


 お菓子コーナーを見て回っていると、混ぜると色が変わる知育菓子が視界に入った。

 昔よく買ってたなぁ…。


 「よし、四つくらい買ってこ」


 「え?!それでいいの?!」


 「なんか久しぶりに混ぜ混ぜしたくなっちゃった」


 こういうのって、見ちゃうと買いたくなるんだよな。

 俺は知育菓子を適当に四つカゴに入れた。

 高橋にはエナドリで作らせよう。

 え?俺は水だよ?


 「後はポテチと小分けされているナッツ系のやつも…後は…お、チョコ棒あるじゃん。これも入れて…楓、後なんかある?」


 「え?えっと…こ、これとか?」


 そう言って楓が渡してきたのは、小さいチョコが沢山入った袋だった。


 「お、いいねぇ」


 袋を受け取ってカゴに入れ、買うものを確認する。

 チョコ系、ポテチ、ナッツ、知育菓子。

 ふむ…。


 「…ちょっと面白味に欠けるなぁ…」


 「あ、旭くん…?」


 もうちょっと刺激が欲しいところだな。

 何かないかなぁ…おっ、良いものはっけーん。


 「うし、これ行くか」


 「あ、懐かしい…」


 俺が取ったお菓子は、三つのガムのうち、一つだけ酸っぱいガムが入っているやつだ。

 この酸っぱいのが、ほんとに酸っぱいんだよな…やべっ、思い出したら唾液が止まらなくなってきた。

 よし、これで刺激物の確保は完了した。


 「楓、他に何かある?」


 「あ、ううん、ないよ」


 「んじゃ、次は飲み物だな」


 お菓子コーナーを出て、飲み物が陳列されているところに向かう。


 「とりあえず、お茶とコーラとオレンジジュースを適当に…おっと、エナドリを忘れていた」


 高橋君の分のエナドリを忘れてはいけない。


 「楓〜…あれ?どこいった?」


 楓に欲しい飲み物を聞こうとしたが、近くに楓はいなかった。

 とりあえず、俺がいた棚の裏の方を見に行く。


 「あ、いた」


 楓は普通にそこにいた。

 とりあえず、迷子じゃなくて安心した。

 楓は、商品棚のある一点をキラキラした目で見ていた。


 「何見てんの?」


 「っ?!旭くん?!」


 俺の声にビクッと反応した楓。

 何集中して見てたんだ?

 そう思い、楓が見ていたところを見る。

 こ、これは?!


 「うーわっ!すっかり忘れてたわ!」


 「え?え?」


 「クリスマスと言ったらこれだろ!」


 そう言いながら、ジュースの瓶を数本取って、楓に見せつける。


 「『子どものお酒』。これ考えたやつは天才だよな」


 実際中身はただのジュースなのだが、瓶とラベルでお酒っぽい雰囲気を味わえる飲み物。


 「ナイス楓!」


 「え?!あ、うん」


 なんか、楓を置き去りにしちゃってる気がする。

 今日の俺は自分でもわかるくらいテンションが高いな。


 「旭くん、楽しそうだね」


 「あ、やっぱりそう見える?ちょっと自重するわ」


 「あっ、あの、違くて!悪い意味じゃなくて!」


 楓は焦った顔で、言葉を探している様子だった。


 「その…いつも旭くんは楽しんでるんだけど…今日は、なんて言うか…純粋…?」


 「純粋?」


 「うん、幼い感じ…?」


 つまり子供っぽいと。

 まぁ、自覚は確かにある。

 理由は単純に、みんなでクリスマスパーティをするのが楽しみなのだろう。


 「それはまぁ、楽しみなんだろうな」


 「楽しみ…?」


 「今までこんなに大勢で遊んだりする事なんてなかったからさ、結構ワクワクしてる感はある」


 今までのクリスマスは、陽葵がいて、伊織がいて、いつもの三人で駄弁って過ごしていた。

 それがいつもの事で、普通だった。


 「それに、今年は…ちょっと色々あったからさ…」


 新しい環境で、気の合うやつを探せるか、友達になれるのか、勉強はついていけるのか、不安な事は沢山あった。

 そして、伊織からの拒絶。

 正直、俺の高校生活は終わったと思っていた。


 「だから俺さ、感謝してるんだぜ?」


 「え?」


 「楓にさ、もちろんみんなにも」


 「わたしに…?」


 「そ…俺と関わってくれて、ありがとね」


 「っ…!」


 今の言葉に嘘偽りはない。

 本当に心から思っている事だ。

 あの時は正直、伊織の拒絶で大分精神的にきてたからな。

 俺は多分、楓に救われていたんだと思う。

 もし、楓が俺と関わる事がなかったら、きっと今、こんなに高校生活を楽しんではいなかっただろう。

 伊織とは仲直りして、高橋たちとはバカやって、陽葵と美波からはよくわからないイジリを受けるこの生活を。


 「わ、わわわたし!ちょっとあっち見てくるね!」


 「え?あっちょ…」


 楓はなぜか、顔を赤くして走っていってしまった。走ると危ないぞ〜。

 楓のただならぬ様子を見て、自分が言った事を振り返る。

 あ、俺、めちゃくちゃクサイ事言ってない?

 おぉ、これがクリスマステンションか。

 怖ぇ〜。

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