第102話 めんどくさいやつ

 「佐倉ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 「うわ、うるさっ」


 水無瀬と勝負した土曜日。

 グダグダ陽葵と駄弁った日曜日が終わり、月曜日さんがやってきた。

 月曜日って、めちゃくちゃ嫌われてるよな。

 日曜日の隣に並んでいて、色がついていないだけなのに、ただ、そこにいるだけで嫌われる悲しいやつ。

 月曜日に罪はないだろ。みんな謝れよ。

 まぁ、俺も嫌いなんだけど。

 おそらく、今、目の前で朝から俺の名前を叫び散らかしている佐藤も月曜日の魔力にやられたのだろう。

 くっ!ここにも犠牲者が…!

 佐藤を視界に入れないように後ろを向くと、後ろの席の楓が見えた。完全に佐藤を怖がっていた。

 くっ!ここにも犠牲者が…!


 「お前ぇ!聞いてねぇぞ?!?!?!」


 「何がだよ」


 物凄い剣幕で寄ってくる佐藤に、ほんの少しの恐怖を感じた。


 「さ、佐藤君、ちょっとうるさいよ?落ち着いて!」


 さすが紀野っち。

 こういう面倒くさい事を引き受けてくれる委員長!

 そのまま職員室にでも連れてってくれ。


 「佐藤…お前、昨日の即死の事、まだ根に持ってるのか?」


 そう言ったのは高橋だった。

 即死?

 …あぁ、佐藤のキャラを、俺と高橋と小鳥遊で集中攻撃してやった時のあれか。

 佐藤のキャラが死んだ瞬間に、イヤホンから物凄い音が聞こえてきた時はびっくりした。

 なるほど、あれが台パンか…。


 「いやいやいや!お前ら知ってたのかよ?!」


 佐藤の視線が高橋と紀野っちの方に向く。


 「だから何が?」


 「大丈夫?」


 しかし、二人共、何が何だかわかっていない様子だった。

 そりゃそうだろ。俺だってわかってないもん。


 「昨日聞こうとしたんだけど、ちょっと不正のせいでイラついて聞くの忘れてたんだけど!」


 集中攻撃は作戦だ。不正なんかじゃないぞ。


 「こいつに彼女いるの、俺聞いてないんだけど?!」


 「…は?」


 何言ってんだこいつ。


 「佐倉君、彼女いたんだ」


 「いや、いないよ?」


 紀野っち?簡単に信じちゃダメよ?


 「旭に彼女…?そんなはずないだろ…」


 「おい、どういう意味だゴラァ」


 高橋てめこら。

 なに真面目な顔して考え込んでんだこの野郎。

 俺に彼女ができるはずないってか?

 …やめろよ…悲しくなるだろ…。


 「何それ。あたしも初耳なんだけど」


 「どっから湧いてきやがった」


 いつの間にか、楓の横に陽葵と伊織がいた。

 あんたらさっき端っこで、お話ししてたはずだろ?


 「ちょっと待てって、俺に彼女なんていないぞ?本気で」


 言ってて悲しくなるなぁ…。


 「んじゃあ!土曜日のあの、かわいい子はなんなんだよ!」


 「土曜日?」


 土曜日…土曜日は水無瀬と過ごしただけのはず…あ…。


 「ゔぇ」


 「あれが彼女じゃないなら、なんなんだよ?」


 うわぁ…なんて説明しよ…。

 よりにもよって、一番説明がめんどくさいやつなんだよなぁ…。


 「どんな子なの?!」


 食い気味に佐藤に詰め寄る美波。

 お前、どっから湧いてきたんだよ。

 さっきまで教室にいなかっただろ。


 「すげーかわいかった」


 「かわいい…」


 「いや、ただの知り合いだって、マジで」


 だから伊織さん、そんなジトッとした目で見ないでください。


 「あのー…あれだよ…勉強教えてただけだって…」


 「ゲーセン入ってくの見たぞ」


 「ストーカーかてめぇは」


 どこまで見られてるんだよ。

 てか、どっから見られてたんだよ。


 「あのな?俺は中学生になんか興味はないのよ?」


 「…中学生…?」


 「あっ」


 いち早く反応をしたのは楓だった。

 やっべ、余計な事言ったかもしれないわ。


 「ちゅ、中学生?」


 「中学生?!」


 「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!めんどくせぇぇぇぇぇぇ!!!」


 マジで余計な事言っちまった。


 「旭は歳下好きか…」


 「そういうお前は歳上好きだろ?」


 「う、うるせぇ!」


 葵さん、元気にしてるか?

 というか勝手に歳下好きの設定を俺に付けるな。


 「はぁ…とにかく、あいつは彼女じゃないから」


 「どこで知り合ったの?」


 「話し聞けや」


 美波は、キラキラした目で俺を見ていた。

 あなた、ほんとにこういう話好きだよね。


 「あーもう、めんどくせぇ…高橋、お前ならわかるだろ?」


 「は?」


 「お前の課題を届けてくれた子だよ」


 「課題?…あぁ!あの子か!はいはい!」


 「え?高橋君も知ってる子なの?」


 自然な流れで高橋にヘイトを向けさせる。

 我ながら良いスキルを身につけたものだ。

 このスキルは、世の中を生き抜くためには必須のスキルだからみんな、覚えておくように。テストに出るぞー。


 「課題って?」


 「ほら、前に旭が俺の課題のプリント失くして怒られてただろ?そのプリントを届けてくれたのが、旭の言っている中学生なんだよ」


 あーそっか…最初からそういう風に説明すればよかったのか。

 高橋の課題とかどうでもよくて、そのエピソード自体忘れてたわ。


 「…その子、流歌君から見て、かわいい?」


 「すっげーかわいい」


 「そ、そうなんだ…」


 高橋の答えを聞いて、なぜか不服そうにする陽葵。

 ここで「なんで不機嫌なの?」とか聞くと、額にシャーペンが飛んでくる恐れがあるため、やめておく。


 「…かわいい…」


 だから伊織さん?

 そのジト目やめてください。なんか冷や汗みたいなの出てくるからさ。

 あ、でもちょっとかわいいかも。


 「…でも…流歌くんの課題を届けてくれた子と旭くんが、なんでゲームセンターに入って行ったの…?」


 「楓…それ、話が終わらないやつ…」


 …言われてみれば、なんで俺ってあいつとゲーセンで遊んでるんだ?

 高橋の課題を届けてもらって、そらで終わりの関係のはずだった。

 …なんで俺、まだあいつと関わってるんだろう…。


 「…旭くん…?」


 「楓ちゃんや…そのへんにしときましょうぜ…」


 「…答えて」


 「か、楓さん?」


 そんなに気になる?ちょ、圧がすごいよ?普通にゲームしてただけですよ?!

 というか、楓がこんなにグイグイくるのはちょっと珍しいな。


 「席に着け。ホームルームの時間だ」


 楓の圧に押されていると、三島先生が教室に入ってきた。

 先生!グッドタイミング!

 やっぱ三島先生だよなぁ!

 俺、あなたに一生ついて行きますよ!…いや、一生こき使われそうだからやめておきます。

 三島先生が教室に入ってきた事によって、今回の話題は終了し、みんなそれぞれ席に戻っていった。


 「むぅ…」


 「…」


 な、なんか、後ろから視線を感じるのですが…。

 楓ちゃん?ホームルームだから先生の話を聞こうね?先生はもうちょっと奥側にいるよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る