第101話 センスのない知識者

 「…ふぅ…」


 「ふぅ…じゃねぇよ」


 温かいココアを飲んで、水無瀬は一息ついていた。

 というか、ゲーセンで温かい飲み物はやめておいたほうがいいと思う。後々後悔するぞ。

 そんな事を考えている間に、水無瀬はココアを一気に飲み干した。


 「佐倉さんって、どんなゲームやるんですか?」


 「俺?うーん…メダルゲームとかUFOキャッチャーとかかな」


 「普通ですね」


 「他に何があるんだよ」


 たまに音ゲーとか格ゲーもやったりするが、あれはやめておいたほうがいい。

 ガチ勢とマッチングして心が折られるぞ。


 「金はあるのか?」


 「まぁ…ちょっと遊ぶくらいなら…」


 「なら無難にメダルゲームでいいだろ」


 「メダルゲームってショボくないですか?」


 「貴様」


 メダルゲームを馬鹿にするな!

 百円で運が良ければ数時間は遊べるんだぞ?!


 「キャッチャーにしましょうよ!」


 「あっ、おい!」


 俺の制止の声も聞かずに、早足でUFOキャッチャーのコーナーに水無瀬は行ってしまった。

 俺も見失わないように水無瀬の後を追いかけると、一つの台の前で水無瀬は止まった。


 「早く来てください」


 「ちょっと自分勝手すぎない?」


 なんか、こいつの相手するのって小学生を相手にするような感覚するわ。

 とりあえずついて行くしかないって感じ。


 「佐倉さん、これ取りましょうよ!」


 そう言って指差した台には、熊のぬいぐるみと、犬のぬいぐるみがあった。


 「へぇ、いいじゃん。やりなよ」


 「任せてください!」


 テンション高ぇなおい。

 でも、こういう台って普通に掴む取り方だと全然取れないんだよな。


 「私知ってますよ?こういうのって後ろから押して取っていくんですよ!」


 「ほぉ」


 思ったよりも水無瀬はわかるやつなのかもしれない。

 こういうのとは縁遠そうな見た目してるのにな。

 見た目だけなら陽キャなんだよなぁこいつ…。

 そう思っている間にも、水無瀬は台に百円玉を入れてゲームをスタートさせる。

 とりあえず、お手並み拝見といこうか。

 水無瀬は慣れた手つきでボタンを押し、キャッチャーのアームを動かしていく。

 最終調整を行なって、アームを降下させた。

 すると、アームの先端は見事に熊の脳天を刺し、形を少しだけ変形させてその場に留まり、アームは何も掴まずに戻ってきた。


 「…」


 「シンプルにヘタクソだな」


 「う、うるさいですね!」


 「こういうのって後ろから押して取っていくんですよ?」


 「知ってますから!というかさっき私が言いました!リピートしないでください!ちょっと失敗しちゃっただけですから!」


 水無瀬は顔を真っ赤にして捲し立ててくる。

 あるぇ?どうしたのかなぁ?お顔が真っ赤ですよぉ?


 「降りる力が弱いんですよ!串刺しにすれば取れてましたもん!」


 「クマさん…」


 なんて残酷な事を…。

 それはもう、取れたとしても、ぬいぐるみとして機能しないのでは?

 放っておくだけで、頭から綿が溢れ出てくるぬいぐるみなんて想像したくない。


 「はぁ…熊が欲しいの?」


 「いえ、隣の犬です」


 「…え?」


 「犬です」


 「…」


 …え?熊じゃないの?


 「いやいや、熊ブッ刺してたじゃん」


 「そ、それはあいつが勝手に刺さりにきたんですよ!」


 「あいつって…」


 俺の目の前にある、かわいらしいぬいぐるみたちは魔物か何かなんですか?


 「…まぁ、いいや。犬な」


 犬のぬいぐるみの位置を確認して百円玉を投入する。


 「まぁ、百円で取れたらこの店も儲からないからな」


 「何カッコつけようとしてるんですか…」


 「うるせぇヘタクソ」


 「ヘタクソじゃないです!」


 水無瀬を無視してぬいぐるみを見る。

 …このアームの細さならタグに引っ掛ければいけるんじゃないか?

 さっきの脳天ブッ刺しじゃアームの強さなんて良くわからなかったが、百円で取れるなんてよほど運がいいかプロくらいだし、やってみる価値はあるだろう。

 俺はボタンでアームの位置を操作し、アームの先端がタグの真上になるように調整する。


 「佐倉さん、何狙ってるんですか?空気ですか?エアーですか?」


 「ちょっと黙ろうか」


 プププとわざとらしく笑ってみせる水無瀬。

 こいつはマジで歳上に対する振る舞いを考えた方がいいと思う。


 「…紐ですか?」


 「そ、タグな…お、入った」


 ヘタクソだが知識はそれなりにあるらしい。ヘタクソだが。

 そうこうしている間にも、アームの先端はタグを通り、ぬいぐるみを持ち上げた。


 「嘘?!」


 「え、マジ?」


 タグが上手いこと引っ掛かった事によって、ぬいぐるみは取り出し口の上まで持ってこられた。

 そしてアームが開き、ぬいぐるみをゲット!…とはいかなかった。


 「「え」」


 目の前の光景に、思わず二人の声が重なる。

 確かに、上手いことタグに引っ掛かった。

 しかし、引っ掛かりすぎて落ちてこなかった。

 ぬいぐるみは取り出し口の真上でプラーンとぶら下がっていた。


 「…ちょ、どうするんですかこれ」


 「…とりあえず、店員呼んでくるわ…」


 「あ、はい」




 その後、店員さんを呼び、引っ掛かりを取ってもらった。

 そして、そのぬいぐるみはゲット判定となり、俺の元へときた。

 あの店員さんは優しかった。

 ありがとう、店員さん。また来るよ。俺、ここを愛するよ。


 「わり、ゲット判定だったわ」


 「ムカつきますね」


 俺は取ったぬいぐるみを水無瀬の前に持っていき、やざとらしくニヤニヤした顔を作る。


 「…なんか納得がいきません…」


 「ま、これが実力の差だよ」


 「なっ?!言いましたね!」


 意外と負けず嫌いなのか、水無瀬は臨戦態勢になった。


 「やってやろうじゃないですか!」


 「いや、ごめんて。そんなに怒るなって。後でジュース買ってあげるからさ」


 「子供扱いしないでください!」


 「いやごめんて」


 「次!あの台です!」


 「話聞かねぇ…」


 激おこ水無瀬は俺の腕を引っ張って、別の台の前へと移動した。


 「これ、先に取った方が勝ちです」


 「はぁ…」


 まったく、世話が焼けるやつだなぁ。


 「一回やったら交代です!さっきは私が最初だから負けたんです!だから佐倉さんが次は最初にやってください!」


 まぁでも、弟とか妹ってこんな感じなんだろうか。


 「同じだ同じ。お前は勝てんよ」


 「ほんっとにムカつきますねぇ〜!」


 陽葵は俺と接する時、どんな気持ちでいるのだろう。

 …いや、あいつは自分が楽しんでるだけだな。うん。

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