第99話 寒い日にはアイスコーヒーを

 「佐倉さん、遅いです」


 「うるせぇ」


 騒々しいハロウィンも過ぎ去り、一気に冷え込んだ今日この頃。俺は土曜日で休みだと言うのに喫茶店にいた。


 「あのな水無瀬…俺だって暇じゃないんだぞ?」


 「そんなバレバレな嘘付かなくていいですよ」


 「てめ」


 前日の夜。

 朝の十時に喫茶店に来い、と水無瀬からメッセージが送られてきた。

 勉強を見てもらうついでに話し相手になってほしいとの事だった。絶対勉強がついでだろ…。


 「俺、そんなに頭良くないってこの前言ったよな?」


 「別に良いですよ?勉強なんてついでですし」


 「言っちゃったよ」


 大丈夫か受験生。

 とりあえず店員さんにアイスコーヒーを頼んで、水無瀬の正面の席に座る。


 「聞いてくださいよ佐倉さ〜ん…」


 「やだ」


 「なんか学校で色々言われるんですよぉ〜」


 「あれ?おかしいな?」


 俺、嫌だって言ったはずなんだけどな?俺の気のせいだったか?


 「前回佐倉さんとここに来た時に、クラスの子が見てたっぽくて」


 「はぁ…で?」


 「ちょっとした話題になってました」


 「へぇー」


 「むぅ…もうちょっと興味持ってくださいよ」


 いやだって、ほんとに興味ないんだもの。


 「付き合ってるのかーとか、どこの学校の人なのかーとか、もう…すっごい聞いてくるんですよ」


 「はぁ…」


 「全部正直に答えちゃいました」


 「ほう」


 「佐倉さんのプロフィール」


 「馬鹿野郎」


 俺の個人情報ダダ漏れかよ。


 「なんか、結構男子が佐倉さんに興味持ってましたよ?」


 「それ、絶対持たれちゃいけない興味よ?」


 刺される?

 とうとう俺刺されちゃう?


 「…ほんと…うっざいです」


 うんざりした顔でシャーペンをカチカチする水無瀬。


 「そう言ってやるなって。みんなお前に興味持ってるんだよ」


 「持たれているのは今の私じゃないですよ」


 「お前なぁ…」


 プイッとそっぽを向いてオレンジジュースを啜る水無瀬を見て、ちょっとだけ複雑な気持ちになってしまった。

 こいつは今の素の自分を受け入れてくれる人がいるか不安なだけなんだよな。

 実際、普通にしていれば結構話しやすくてそれなりに面白い、良いやつなんだけど、その水無瀬を水無瀬自身が外に出す事を拒んでしまっている。

 このままじゃまずいよなぁ…。


 「寄ってくる男子も、陰で悪口言う女子も…ほんとうざいです」


 「…あんまり言ってやるなよ?」


 「みんな深爪してしまえばいいんです」


 「地味に嫌なやつ」


 あれ痛いんだよな…。

 別に生活に支障はないんだけど絶妙に痛いやつ。

 でも、やっぱりこのままじゃだめだな。

 なんとかしないと。


 「とりあえず、高校では『可愛い私』なんてやめろ」


 「…は?」


 信じられない、とでも言いそうな目で俺を見る水無瀬。


 「いや無理です」


 「だめです」


 「なんでですか?!」


 「社会に出る時大変だぞ?」


 「社会人なんて媚び売ってなんぼじゃないですか!」


 「問題発言をやめろぉ!」


 こいつ、なんて事言いやがる。

 社会人の皆さんに謝りなさい!


 「お前自身、このままじゃだめだって思ってるんじゃないのか?」


 「え、思ってないです」


 「あ、そなの…」


 こういう時って「な、なんでそれを?!」みたいな表情するもんじゃないの?


 「…はぁ…この話はもう終わりにしましょう」


 「…まぁ、そうだな」


 ちょうど良く頼んでいたコーヒーが来たため、それを飲む。

 …あ、冷てぇ…寒っ!

 やっぱホットにしておくべきだったか…。


 「佐倉さん、それ飲み終わったらちょっと出かけましょ?」


 「は?どこに?」


 「適当にブラブラと」


 「勉強はどうした」


 「もうやる気出ないです」


 「あー…えぇ…」


 俺がやる気削いじゃったのかもしれないわ。

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