第96話 トリックあんどトリート

 「いやいやいや…」


 昼休み、クッキーと一通の手紙を机の下で観察する。

 これどうしようか。

 とりあえず中身は確認しないといけないよな。

 本当にこの手紙の主が書いている『旭』かを確認する必要がある。


 「旭ぃ〜昼飯食お…」


 「俺の後ろに立つなぁ!!!」


 「何?!」


 今はお前に構っている暇はないんだよ高橋。

 あまり俺を刺激すると、お前の持ってる消しゴムの角を丸くしちゃうぞ。

 そんな事を考えていると、高橋は俺の手にある手紙に目がいった。


 「…ラブレター?!」


 「ばっ!違ぇよ!多分…」


 大きな声を出すんじゃない!

 視線が…視線が痛い!

 特に窓側の後ろの方。

 伊織と陽葵、プラス楓と美波がめちゃくちゃ見てる!

 おい陽葵、お前何笑ってんねん。


 「…それ、確認したのか?」


 「いや、まだだけど…」


 「早く見てやれよ。単純にお礼とかかもしれないだろ?」


 「いや、覚えがないんだが…」


 「知らないうちに助けてた、っていう事もあるかもしれないだろ?」


 「な、なるほど」


 高橋にしては、なかなか良さげな説を出してきたな。


 「では、失礼して…」


 「早く見せろ」


 「てめぇは黙ってろ」


 てか見てくんなよ。失礼だろ?

 封筒を開けると、やはり手紙のようなものが一枚入っていた。

 そして何も身構える事もなく、その手紙を開いた。

 はたして、手紙の内容とは?!


 『好きです』


 俺はそっと手紙を閉じた。


 「…」


 「…」


 俺は高橋を見る。

 高橋は信じられないものでも見るような目で俺を見ていた。


 「…ひ、ひひひひひひひ昼飯くくくくくおぜ」


 「そそそそそそ、そだな!」


 俺と高橋は昼飯を準備し始める。

 今日のお昼は塩むすびです。コンビニの塩むすびって美味しいですよねあははは。


 「旭〜!なんて書いてあった〜?」


 「う、うるさい!お前には関係ないだろ?!」


 陽葵がかなり大きな声で問いかけてきたため、動揺してしまった。

 決して手紙に動揺していたわけではない。決して、絶対に!


 「旭君やるねぇ!」


 美波はキラキラした目で俺を見て、そう言った。

 そんな目で見るな。てか煽るな。てか内容わかってねぇだろ。

 キラキラした目の美波の横には…なんかもう…感情が読み取れない伊織と楓がいた。

 あれは関わらないほうがいいな…。

 俺は二人とは目を合わせないように高橋のほうを見る。


 「な、なぁ旭。それってやっぱり…」


 「おおおお落ち着け。書き途中で間違って出しちゃったのかもしれないだろ?」


 「そんな事ある?」


 落ち着いてまず昼食を取ろう。

 そう、落ち着こう…そしてさっきの手紙をもう一度よく見るんだ。差出人とかまだ見てない…あれ?手紙どこ行った?


 「結局なんて書いてあったのさ?」


 「あ!てめ!」


 「オープン!」


 気付くのが少し遅かった。

 だから人の手紙読むなって!

 そんな事を考えていると、美波は黙って手紙を返してきた。


 「…ごめん…返すね…」


 「ど、どした?」


 「い、いやぁ〜…どうせ、いたずらかなんかだと思ったんだけど…女の子の字っぽいし、冗談じゃないのかも…面白半分で関わっちゃいけないやつだね…」


 「女の子っぽい?」


 そう言われて、手紙の字をよく見てみると、たしかに女の子が書くような丸っぽい字だった。

 というか、なんか見たことある気がするんだが…。


 「ねぇ!差出人の名前とか書いてないの?!」


 「お前、やっぱり面白がってるじゃねぇか」


 美波の言葉に、手紙を読みながら高橋がつっこんだ。

 お前も人の手紙読んでる時点で同類だよ。いいからその手紙返せ。いつ取ったんだよ。全然気づかなかったわ。その才能を他に活かせよ。


 「…なんかこの字見たことあるんだよなぁ…」


 「は?お前も?」


 「うん」


 「だよね?もしかして知らない人じゃないんじゃない?」


 美波も高橋も、そして俺も見た事がある字。

 俺たちの共通の知り合い?

 そして俺に好意を持っていそうな人物。

 …伊織?

 俺は勢いよく伊織のほうを見る。

 するとジト目で不機嫌そうな伊織が見えた。あらかわいい。

 うん、違うね。

 というか伊織の字じゃないわ、これ。


 「…差出人の名前が書いてないから気にしなくていいのか…?」


 「おいおい、それでも男か?」


 「えぇ〜かわいそうじゃ〜ん」


 くっ!こいつら無関係だからって好き勝手言いやがって!

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