第91話 突然の席替え

 「結婚って考えてるか?」


 ある日の昼休み。

 文化祭が終わった途端に一気に気温が下がり始め、秋に入りかけていた時だった。

 俺、高橋、楓、美波、陽葵、伊織、ついでに佐藤、というオールスターで集まって昼飯を食べている時、佐藤は急にそんな事を言い出した。

 それを聞いた各々は食事をする手を止めた。


 「…なに、急にどしたの?」


 「いや、俺って結婚できるのかなぁって…」


 深刻そうな顔をしてそう言う佐藤。

 ちょっと気が早すぎないか?


 「あたしは旭と結婚したいと思った事あるよ」


 唐突に訳のわからない事を言い始めた陽葵。


 「何言ってんだお前」


 「思った事はあるけど別にそうでもないかな」


 「何なのお前」


 陽葵が意味わからない言動をするのは、いつも通りだから適当に流せば万事解決。


 「まぁまぁ、考えてみてよ旭。私と結婚したらどうなるかを」


 「え、やだ」


 爪楊枝が飛んできた。


 「…今の環境を変えないまま、結婚しているという事実ができて、家事とかそのままでいいんだよ?楽じゃない?」


 なるほど。

 普段通りの生活を変えずに、そして独身だと馬鹿にされることもない…。


 「ありだな」


 「でしょ?」


 こ、こいつ、天才か?!

 珍しく陽葵が天才かと思ってしまった。

 なるほど、馬鹿と天才は紙一重なのか。


 「だ、ダメだよ!」


 「ダメに決まってるでしょ?!」


 楓と伊織が一斉に詰め寄ってくる。

 何で俺?言い始めたの陽葵だよ?


 「旭君は楽ができればいいんでしょ?」


 そう言って美波が二人を引っ張って、元の位置に戻す。


 「まぁね」


 「最低だよこの人」


 「美波はもしかして、相手に尽くすタイプ?」


 「キモい」


 「は?てめ」


 だから『キモい』はだめだってマジで。

 俺の今日の分のライフが半分くらい持ってかれたぞ。


 「逆に旭は一人だと多分、二日はもたないぞ」


 そう言って高橋は俺の頭をバシバシと叩き始める。

 うざっ。


 「お前、それはさすがに馬鹿にしすぎ」


 「さすがにか?」


 「三日くらいならもつぞ」


 「あ、あんまり変わらないような…」


 そう言う楓は、俺をかわいそうなものでも見るような目で見ていた。

 やめて!そんな目で見ないで!




 「席替えするか」


 授業の余った時間に、三島先生が唐突にそんな事を言い始めた。


 「急にどうしたんですか?」


 「何?一番前がいい?」


 「言ってねぇよ」


 なんでこの人は俺を前列に置きたがるんだよ。


 「問題児だからだよ」


 「読むな読むな、心を読むな」


 なんで考えてる事わかったんだよ。

 さとり妖怪ですか?

 あぁ、妖怪か、納得。


 「教卓の前な」


 「怖いですって」


 だからなんでわかるんだよ。




 「んー…微妙…」

 

 まだ、周りには引き終わっていない人がいるが、俺のくじ引きは終わった。

 結果、一番前の席は免れた。

 免れたのだが…。


 「なんで真ん中なんだよ…」


 本当にど真ん中だった。

 仲のいいやつらは、みんな離れ離れになっちゃったし。

 伊織は窓側の一番後ろ、陽葵はその前になっていた。

 伊織は運が強すぎない?

 高橋は教卓の前だった。

 ざまぁみやがれ。


 「落ち着かねぇ…」


 「文句言わないの」


 「へーい」


 ちなみに隣の席は紀野さん。

 あらまぁ。授業が楽になるかもしれないわぁ。


 「勉強初心者だからよろしくね」


 「自分でやらなきゃダメだよ」


 そこをなんとかお願いできないですかね。


 「…でも、やる気があるなら教えてあげる」


 「やったぜ」


 さすが紀野さん。我らが学級委員長!


 「答えだけ教えるって事はないからね!」


 「えー!」


 「えー、じゃない!」


 隣が話しやすい人で良かったわ。


 「あ…旭くんだ」


 「ん?おー楓じゃん」


 「また近くだね」


 「よかったわぁ…」


 なんと、楓が俺の後ろの席になった!

 やったね!これで心細くないよ!


 「…よかった…」


 楓も、少しでも仲が良い人が近くにいて安心したのだろう。ホッとした顔をしていた。

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