第92話 兄と妹

 「旭くん、今日この後、時間あるかな…?」


 授業も終わり、放課後。

 鞄に筆箱を、机の中に教科書を突っ込んで帰ろうとした時だった。

 楓は不安そうにこちらを見ていた。


 「全然あるけど…どったの?」


 「その…お兄ちゃんの誕生日プレゼントを一緒に見てほしいんだけど…」


 「お兄ちゃん?…あぁ、会長か」


 「う、うん」


 なんて兄想いな優しい妹なんだ!

 というか会長、あんた恵まれすぎじゃないか?

 綺麗な彼女に、心優しいかわいい妹、そしてイケメン。

 うん、爆発してしまえば良いと思うの。


 「別にいいけど、なんで俺?美波とかのほうがいいんじゃないか?」


 「や、その…男の人にあげるから…」


 「あぁ、そゆこと」


 「旭くんが…いいなって…」


 「oh…」


 そんな恥ずかしそうに言わないでくれかわいいですからお願いしますなんでもしますから。


 「ご期待に添えられるよう頑張るよ」


 「だ、大丈夫!旭くんだから!」


 ん〜?楓ちゃん?

 それは期待しているのか貶しているのかどっちなんだい?




 「やって参りました。雑貨屋です」


 「う、うん」


 「急に何言ってんだこいつ」みたいな顔で俺を見てくる楓。

 だめ?なんかこういうのってノリ良くいかないとじゃん?知らんけど。


 「こんな感じのが良い、みたいなイメージはできてるの?」


 「ううん、全然…」


 「なるほど」


 「ご、ごめんね…?」


 「いや、別に謝らなくても良いよ」


 できてないから俺に救援要請を出したんだから、できてなくて当たり前だ。


 「会長の誕生日っていつ?」


 「十月の二十日だよ」


 「今日は何日?」


 「じゅ、十九日です…」


 「楓ちゃん?」


 「ご、ごめんなさい…」


 「あ、や、ごめんね?そんな本気にしなくて良いからね?」


 ちょっとした悪ノリのつもりだったのだが本気にされてしまった。

 まぁ、そこが楓のいいところでかわいいところなんだけどね?

 

 「さて、楓的には残るものと残らないもの、どっちをご所望で?」


 「え、えっと…?」


 「つまり、消耗品か備品かって事」


 「な、なるほど…できれば、残るもの、かな」


 ふむ。

 インテリア、キーホルダー、装飾品あたりか?


 「旭くんは…何もらえたら嬉しい…?」


 「へ?俺?」


 「う、うん…」


 なんかすごい真面目な顔で聞いてきたな。


 「妹からもらえて嬉しいものかぁ…」


 「あ、あの、妹じゃなくても、女の子の友達とか…その、彼女…とか…」


 「ふむ」


 わかりやすい例えを楓は提示してくれた。

 そう考えれば多少は思いつくか。

 この場合、楓からもらえたら、という感じのほうがわかりやすいだろうか。

 俺は楓を見てみた。

 楓は俺を横目でチラチラと見ていた。

 …どしたの?


 「…どうせもらえるなら…置物とか?」


 「…置物?」


 「ぬいぐるみとか部屋に飾るようなものかな。俺の部屋、ゲームくらいしか置いてないからさ」


 「…なるほど…」


 楓さん?俺じゃなくて、お兄さんのプレゼントを考えるんだよ?

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