第83話 文化祭の終了

 『本日の文化祭はこれにて終了となります。ご来場のお客様は、帰り道にお気をつけください』


 校内放送で告げられた文化祭の終了の合図。

 お客さんが次から次へと校門から出て行くのが教室の窓から見える。


 「終わったな…」


 「だなー」


 楓との文化祭巡りを楽しんだ俺は、高橋と教室の片付けをしていた。

 高橋はいつ帰ってきていたのかはわからないが、思ったよりも元気そうで俺は少しほっとしている。


 「片付けやる気でねぇな」


 「たしかに」


 俺の言葉に同意を示す高橋。


 「…全部捨てるか」


 「その方が楽だな」


 「…バカか?お前ら」


 片っ端から高橋と一緒にゴミ袋に詰めていると、後ろから罵倒された。


 「…付喪神じゃん」


 「別もんになってんじゃん」


 そこにいたのはイケメンで有名な、あの九十九だった。

 ちなみに有名かは知らない。


 「今年のイベントはこれで終わりなんだから最後くらい真面目にやれよ」


 「うわっ、真面目かよ」


 「少しは旭を見習えよ九十九」


 「こいつに見習う部分なんてないだろ?」


 「たしかに」


 「てめぇら」


 二人して何がしたいんだこのやろう。


 「後は勉強するだけか…」


 そう言いながら九十九は教室を見渡す。


 「何言ってんだこいつ」


 「何言ってんだてめ」


 「は?」


 「勉強なんかしてる暇ないだろ」


 「そうだそうだ」


 「お前ら留年してしまえ」


 な、なんて酷い事を言うのこの子は?!


 「…まぁ、ほどほどにしとけよ?成績は大事だぞ」


 「わぁってるよ」


 まぁ、たしかに勉強は大事だ。

 成績が悪かったら遊べる時も遊べなくなってしまう。


 「んじゃ、俺あっち片付けてくるわ」


 そう言って九十九は忙しそうな方に行ってしまった。


 「…結局あいつ何しにきたんだ?」


 「気にしたら負けだぞ」


 いやだって、俺たちのところ手伝うわけでもなく、どっか行っちゃったぞ?


 「寂しかったんじゃね?」


 「ウケる〜」


 「聞こえてんぞ」


 「いった!」


 プププと笑っていたらペットボトルのキャップが俺の額に飛んできた。

 何で俺?


 「早く終わらせてよ旭〜」


 そう言って後ろからしなだれかかってくる陽葵。

 働け、まな板め。


 「ちょ、邪魔」


 「またまた〜、ほんとは嬉しいくせに〜」


 「クッション性が足りない。出直してきな」


 「あるもん!ちゃんとあるもん!」


 「腹が?」


 「旭の今日の晩ご飯はごぼう一本ね」


 「oh…」


 陽葵の声が急に冷めた気がした。

 陽葵も女の子だったか。そう言う話を気にするのね。俺は安心したよ。


 「一本丸ごと食べていいんだよ?」


 全然嬉しくねぇ…てか怖い。


 「流歌君も食べる?ごぼう」


 「何でだよ」


 俺の時とは打って変わって揶揄うような口調で高橋に話しかけた。


 「元気でるよ?」


 「ごぼうで?」


 高橋と陽葵は楽しそうに話を始めてしまった。

 あのぉ…俺もいるんですが…。

 二人の世界に行ってしまったので、俺は一人で片付けを再開する。

 数分後、片付けに終わりが見えてきたところで俺は窓の外を見る。

 日が落ちかけていて、橙色の世界が目の前には広がっていた。

 今日が終わる。

 さっき九十九も言った通り、学校でのイベントはこれで終わりだ。

 まぁ、小さい行事くらいなら少しはあるだろうけど。

 後は基本的に勉強をするだけの生活が始まるのだ。


 「…だっる」


 そう考えるだけで急な怠さが俺を襲う。

 勉強したくねぇなぁ…。


 「…ねぇ、旭」


 「ん…」


 俺は呼ばれた方を向く。


 「伊織か」


 「う、うん」


 「どうした?」


 「…あのね…」


 何か言いづらそうにしている伊織。

 声は小さくて、注意して聞かないとクラスの喧騒に掻き消されてしまいそうだった。


 「…その…二人で…話したい…」


 「…ん?…うぇ?ふぁ?!」


 え、なに?告白でもされんの俺。

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