第68話 簡単…?

 「真面目な話、ホットケーキってそんなに簡単なのか?」


 「簡単だけど…興味あるの?」


 「いや、陽葵が料理のバリエーション増やせって言ってたからさぁ」


 「ちなみに旭君は何作れるの?」


 「煮込みラーメン」


 そう言うと、美波と楓は一度顔を見合わせ、困ったような顔を俺に向けてきた。


 「…他には?」


 「えっ、煮込みラーメン作れれば生活できるくない?」


 「…陽葵ちゃんがいて良かったね」


 「旭くん…栄養バランス考えないとね」


 「視線がいてぇ」


 たしかに、栄養バランスについては陽葵にも何度か言われた事がある。

 俺ってもしかして、陽葵がいなかったら死んでた?陽葵様ぁ〜!これから一生俺を養ってください!…だめ?あ、そっすか…。


 「…まぁ、あれだ、バリエーション増やすとかいう話は置いといてだな、陽葵がそういうの好きそうだから覚えておいても良いかなって思ってさ」


 「思ったより陽葵ちゃんの事考えてるんだね」


 「…いいな」


 「いや、たまにあいつが『甘いもの作って』って言ってくるからだけど」


 「そういう時、旭くんは何作ってあげるの?」


 「プリン」


 「プリンは作れるんだ…」


 まだ小さかった時、陽葵が風邪ひいて熱出した時、陽葵が「柔らかいものが食べたい…」と譫言のように言っていた事があった。

 そこでプリンを作ってあげたんだが、幼かったからか、材料のパッケージの漢字は読めないし、分量の単位はわからないしで、出来はメチャクチャだった記憶がある。

 今はちゃんと形にはなっている…はず。


 「プリンって混ぜてレンチンするだけじゃん」


 「あんた料理人に謝りな」


 「ごめんなさい」


 「謝っちゃうんだ…」


 楓、俺は謝って許されるなら、いくらでも謝るぜ?


 「…まぁいいや!とりあえず作っちゃうから旭君は私たちのこと見てなよ!簡単だからさ!」


 「あいよ、よろしく先生方」


 「せ、先生…」


 「いいかい旭君。まずはこの白い粉を用意します」


 「おい、言い方」


 白い粉はだめだろ。




 「はいどうぞー!」


 「ど、どうぞ!」


 「おぉ…」


 目の前には、出来立てホヤホヤのホットケーキが二つ。

 楓が作った分と美波が作った分が並べられていた。

 文化祭の出し物でこれが出てくるのか…いいな。


 「見た目もいいし、出しても大丈夫でしょ」


 「いやいや、味を見なよ」


 「え?二つ食うの?」


 「え?当たり前じゃん」


 「oh…」


 まだ昼前よ?いや、食うけどね?

 とりあえず、ナイフとフォークを手に取る。


 「いただきマンボウ」


 「何それ」


 まずは楓が作った方を適当に切って口に運ぶ。


 「おぉ、おいふぃいほ」


 「飲み込んでから喋って」


 奥さん!これ美味しいですわよ?!フワッフワですわ!フワッフワ!口の中に優しい甘さが…。


 「うめぇ…俺もう死んでもいいや…」


 「だってさ楓ちゃん」


 「だ、だめだよ?!」


 続いて、美波の作ったホットケーキを見てみる。

 …うん、見た目はあんまり変わらないな。


 「いただきマリモ」


 「だから何なのそれ」


 一口サイズに切って口に運ぶ。

 んん?!全然違う!作り手によってこんなにも変わるものなのか…。

 感想、うまい。

 まじでうまい。

 楓とは違って、もちもちとした食感に、ストレートに甘さが伝わってくる感じ。こいつぁすげぇや。


 「やべ、これめっちゃ好き」


 「ほんと?!」


 「…」


 「いや、どっちもうまいけどね?」


 個人的な感想として、俺は美波のホットケーキの方が好きだって話だよ?だからね楓ちゃんや、そんなに不服そうな顔しないでくださいな。


 「…ねぇ、美波ちゃん…」


 「ん?」


 「…作り方、教えて!」


 「ど、どったの?急に」


 楓が美波に詰め寄っている。

 ここまで積極的な楓は珍しいな。

 そう思いながら、俺はホットケーキの端っこの焦げた部分を食べている。ここ好き。


 「ま、まけないからっ!」


 「何の話…あー…いや、そんなつもり無いんだよ?」


 負けない?何か勝負でもしていたのだろうか。


 「何の話?」


 「ちょっと黙ってて」


 「えぇ…」


 若干拗ねながらもホットケーキのもちもちを堪能する。

 やべぇ、やめらんねぇなこれ。


 「ガールズトークに男子は入っちゃだめなの!」


 「いつからガールズトーク始まってたのさ」


 女子ってたまに意味わからん。

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