第64話 何とかしないと

 「朝香は子供だよね〜」


 昔からずっと陽葵に言われ続けてきた言葉。

 完全に揶揄っているような声音で私に向かってそう言ってくる陽葵。


 「全然嬉しくないんだけど…」


 「えー褒めてるのにー」


 「褒められてる気がしないんだけど…」


 この子は絶対に私をバカにしている。

 そこに悪意がないことはわかってるけど、子供っぽいと言われても全然嬉しくない。


 「まぁ、子供っぽいって言われれば…そうだな」


 「あ、旭まで?!」


 旭まで私の事をこ子供っぽく思っているらしい。


 「私は来年から高校生なんだよ?!」


 「「そゆとこ」」


 「…もうっ」


 二人して私を揶揄ってくる。

 私ってそんなに子供っぽいのかな…。




 「朝香は子供だねぇ…」


 高校生になって、旭を拒絶した次の日。

 旭がいない通学路を歩いている途中。

 陽葵は高校生になってからも、私を子供っぽいと言ってきた。

 しかし、今回は前までの揶揄っているような声音ではなく、明らかに呆れたような感じだった。


 「…わかってる…」


 今回ばかりは自覚せざるを得なかった。

 イライラしているからって旭に酷い事を言ってしまった。

 旭は私を心配していただけなのに、一時の感情で彼を拒絶してしまった。


 「だったら早く仲直りしなよ…」


 「それは…」


 私だって、できるなら早くそうしたい。

 でも…。


 「なんて言えば良いのよ…」


 「私のこともかまって!って」


 「無理無理!」


 「でしょうね」


 そんなの、恥ずかしすぎて言える訳ない!


 「だったら、自分で考えるしかないね」


 「自分で…」


 「そ、自分で。朝香は旭をどう思ってるの?」


 「…わからない」


 「…はぁ」


 「うっ…」


 陽葵のため息が心にくる。


 「朝香…別に朝香が全部悪いって言うわけじゃないよ?」


 「うん…」


 「でも、朝香が悪くないわけでもないんだよ?」


 「…うん」


 それはわかってる。


 「だからさ、ちゃんと自分の気持ちに整理をつける事。いい?」


 「気持ちに、整理…」


 「そ、朝香は旭をどう思ってるのか、旭とどうなりたいのか」


 「うん…ごめんね」


 「別に良いよ」


 そう言って陽葵は笑ってくれた。




 夏休み明けの文化祭準備期間、陽葵は明らかに様子がおかしかった。


 「陽葵?何かあったの?」


 「…あー気にしないで!」


 「気にしないでって言われても…」


 「…旭とちょっとね」


 「…喧嘩したの?」


 「…うん」


 陽葵と旭が喧嘩した?

 あんなに仲が良かったのに…?

 もしかして私のせいなんじゃ…。

 どうしようもない不安が押し寄せてくる。

 私のせいで陽葵たちが…。


 「あ、朝香のせいじゃないから気にしないで!」


 不安が顔に出てしまっていたのか、陽葵は取り繕った笑顔でそう言った。


 「…嘘」


 「う、嘘じゃないよ!」


 「何年、陽葵と幼馴染してると思ってるの?」


 「うぐ…」


 陽葵が嘘をついていることは、なんとなくわかる。


 「まぁ…関係ない訳じゃないけど…そんなに大事じゃないからさ、あまり気にしなくて良いよ」


 「で、でも…」


 「ほ、ほら!文化祭の準備しよ!」


 「あ、ちょっと!」


 陽葵は私から逃げるように教室を出て行ってしまった。


 「行っちゃった…」


 取り残された私は教室の中を見渡してみる。みんな文化祭の準備をしていて、会話があちこちから聞こえてきた。

 私も何かしよう。

 このまま何もしないでいるのは、さすがに悪いだろう。

 クラスの子から折り紙を貰ってきて、自分の席で装飾作りをする。

 このままじゃダメなのはわかってる。早く何とかしないと。

 でも…どうやって?

 もう、本当に素直に、あの時の気持ちを言って許してもらうしかないのかな?

 でも、それで許してくれるのかな?

 頭の中でぐるぐると疑問と不安が混ざって、段々と周りのことが気にならなくなってくる。


 「…り…おい!伊織!」


 「は、はい!?」


 考えに夢中になって、呼ばれていることに気が付かなかった。

 私は声の主の方に視線を移動させる。


 「…高橋君?」


 「どうした?ぼーっとしてたけど」


 「あ、ううん、ちょっと考え事してたみたい」


 「そうか」


 今まであまり高橋君とは話すことはなかったから、こうして話しかけられたことに少し驚いてしまう。


 「…なぁ、ちょっといいか?」


 「え…?」

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