第55話 高橋と…?

 綺麗な茶髪を短めに切った女性。

 かわいい、というよりも綺麗の方が合う女性だった。

 そんな女性が高橋を逆ナンしていると言う状況に、なんとも言えない気持ちになっていると、件の彼女は俺の視線に気づいたのか俺の方をチラッと見る。

 やべっ、見過ぎたか?

 不自然にならない程度に顔を背けてその場を後にする。

 さらばだ高橋。三十分後にまた会おう。

 別に関わりたくないとかそう言うんじゃないですよ。お取り込み中のようですから?友人である私は?気を使ってこの場を離れたというわけですよ。


 「ねぇ君」


 「え」


 だからこんな風に話しかけられる理由なんてないと思うのだが。


 「…人違いでは?」


 「まだ何も言ってないんだけどね」


 「いや、あれですよ。貴女のような綺麗な方が私のようなものに話しをする理由が見当たらないんですよ」


 「なるほどなるほど。お上手ね」


 「じゃ、そゆことで」


 「待ちなさい」


 ふぇぇ…なんなのこの人。


 「君は流歌くんのお友達?」


 「るか?…いえ、聞き覚えがありませんね」


 「おい」


 女性と話していると後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。


 「あ、流歌くん」


 「あぁ、流歌って高橋の事か」


 そういえば高橋ってそんな名前だったな。


 「なぁ高橋、この人と知り合い?」


 「まぁ…そんなとこ」


 「家が隣同士で毎日遊んでた仲だよね〜」


 「ちょっ!余計なこと言うな!」


 おぉ、高橋が珍しく恥ずかしそうにしてるぞ。


 「一緒に寝た仲だもんね〜」


 「高橋、お前とは絶交だ」


 「言い方ぁ!」


 こいつとは縁を切ろう。こんなに綺麗な女性とそんな仲になるなんて許せん。


 「まぁ、寝たって言ってもほんとに寝ただけだけどね」


 「まぁ、でしょうね」


 寧ろそうじゃなきゃ俺は本気で高橋をこの手で殺めていたかもしれない。落ち着け…俺の手よ。

 高橋は大きくため息をついた。


 「この人は葵雫あおいしずく。家が隣同士だからよく世話になってたんだよ」


 「なるほど、うちの高橋がお世話になっております」


 「いえいえ〜。これからも流歌くんをよろしくね」


 「何でそこだけ保護者会みたいな空気になってるの?」


 この人はなかなか話しやすい人だな。

 最初は絶対に関わりたくないとか言ったけど、やっぱ人間話さないとわからないもんだな。


 「葵さんって社会人ですか?」


 「いや、しず姉は一応、大学生だ」


 「一応ってどう言うことかなぁ?」


 「いたいいたい!」


 ゲンコツを高橋の頭頂部に当ててグリグリとする葵さん。普通に痛そう。

 というか、高橋は葵さんのこと、しず姉って呼んでるのな。


 「仲良いんですね」


 「まぁねぇ、幼馴染だからかな?」


 「ちょ、しず姉、それは…」


 「?」


 幼馴染ねぇ…。

 幼馴染だからってどいつもこいつも仲が良いわけじゃないんだよな。

 そんな黒い感情が湧いてくるが、表には出さないように努める。


 「いいじゃないですか。仲良くて。もしかして…付き合ってたりします?」


 「なっ?!お前っ!」


 ものすごい勢いで俺に向かってくる高橋。顔は真っ赤だ。


 「ん〜それはないかな」


 「あ、そうっすか」


 冷静さを失っている高橋に対して、葵さんは狼狽えることなくそう答えた。


 「…そうそう、俺たちはそんなんじゃないって」


 そう言う高橋はどこか悲しそうに見えた。

 …あれ、また俺爆弾投下しちゃった?

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