第54話 高橋と夏休み

 花火大会は無事に終わって数日後。

 夏の日差しが本格的になってきた今日この頃。


 「で、だ高橋」


 「おう」


 街中の小さな喫茶店。

 夏休み中だからか、午前中はお客さんは少なく、学生くらいの人がちらほら見えるくらいで、とても静かな雰囲気の中、俺と高橋は二人きりで喫茶店にいた。

 もう一度言おう。二人きりで、だ。


 「何で俺はお前と二人きりで喫茶店にいるんだ?」


 「いや、昨日の夜に夏休みの課題やろうってメッセージ送ったろ?」


 「いや、それはわかるんだが」


 昨日の夜。たしかに俺は高橋からそのようなメッセージをもらい、俺はその誘いを受けた。


 「何で喫茶店?」


 俺個人の意見としては、「家で良くね?」って感じなのだが。


 「んなもん決まってるだろ」


 「何さ」


 「なんか喫茶店で勉強って憧れない?」


 「わかる」


 なるほど、そういうことか。

 わかるわぁ、なんか喫茶店でコーヒー飲みながら勉強とかしてる人ってかっこよく見えるんだよな。

 昔から一回やってみたいと思ってたが、まさかこんな事で達成されるなんて…人生何があるかわからんな。


 「なぁ高橋」


 「ん?」


 「正直言うと…勉強したくない」


 「わかるわぁ」


 やっぱり高橋は高橋だった。

 なんなんだこいつ。勉強しようって言ってきたのはお前だろ?もうちょっとやる気出せよ。


 「ゲーセン行きてぇな」


 「わかるわぁ」


 わかるわぁ。




 ガンガンに効いたクーラーの冷気が、移動中に熱くなった体を一気に冷やしてくれる。

 ガチャガチャ、ピコンピコン、チャリンチャリン。

 様々な音楽や効果音が聞こえて来る。


 「やって参りました」


 「いえーい!」


 喫茶店の静かな空間とは打って変わって、騒々しい空間に変わってしまった。

 やっぱ休みの日に勉強とかやってられねぇわ。


 「何する?」


 「メダルをどっちが一番増やせるか勝負しようぜ」


 「おめぇ〜俺にその勝負を仕掛けちゃってもいいのかですかい?」


 「なんかもういろいろわからん」


 おいおい高橋君。俺は昔、落ちてたメダル一枚を百枚前後まで増やした男だぜ?


 「百円でメダルが十枚。気づいた頃には千枚に増えてるぜぇ?」


 「何なんだお前は」


 若干引いた目で俺を見てくる。

 フッ、今更気づいたってもう遅いぜ。もうお前は負けてるんだよ!


 「まぁいいや…じゃあ、一時間後にメダル販売機の前に集合な」


 「負けた方がさっきの喫茶店で一番高いの奢るって事で」


 「いいなそれ」


 こういう賭け事は罰ゲームがあった方が燃える。


 「んじゃ旭、また後でな」


 「財布の口開けて待っとけ!」


 そう言って俺たちは別れてメダルを増やしに行くのだった。




 あれから三十分が経過した。


 「やべぇ、増えねぇ…」


 残り時間は三十分。メダルの枚数は十枚。

 …いや、メダル使ってないわけじゃないよ?減ったり増えたりした結果がこれなんだからね?


 「どこかにいいゲームないかな」


 こうなってしまった以上、堅実に一枚ずつ稼ぐ、なんて方法は取っていられない。一発で大量に稼がないと…。


 「…ん?」


 そんな夢のようなゲームを探していると、綺麗なお姉さん系の女の人に話しかけられている高橋を見つけた。

 え?あれが噂の逆ナンですか?

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