第51話 振る

 それは、中一の夏。

 よく晴れた日のことだった。


 「私…九十九君が好きです!私と付き合ってください!」


 その日は日直の仕事があり、少し遅くまで学校に残っていた日だった。

 告白。

 俺は今、告白をされたんだ。


 「えっと…」


 嬉しかった。

 こんな俺でも好きになってくれる人がいるんだって。

 小学生の頃は男友達としか遊んでいなかったし、話すこともないから女の子との接点なんてなかった。

 それに、女子も女子同士で固まっていたからな。小学生なんてそんなもんだろう。

 中学に上がってみんな大人しくなったから男友達だけと話したり遊んだりすると言うことはなくなった。

 だから女子とも普通に学校では話すようになっていた。

 でも、告白なんて…それにこの子は…。


 「えっと…申し訳ないけど、誰…ですか?」


 我ながら告白してくれた女の子に対して酷いことを言ったものだな。

 でも、中一の夏だぞ?入学式だって数ヶ月前にやったばっかりだし、それに全部のクラスの人の名前なんてまだ覚えていない。靴の色からしておそらく、同学年だということだけはわかる。


 「あ…そうだよね…やっぱり知らないよね…」


 「うん、ごめんね」


 「…えっと…その…返事は…」


 「あーっと…その、俺君のことよく知らないから、告白を受けることは出来ないかな」


 「う、うん…」


 「…その…ほんとにごめん…」


 「ううん!私が勝手にやったことだから…気にしないで!…ごめんね!」


 「あ、ちょ…」


 そう言って彼女は泣きながら逃げるように去っていった。


 「…はぁ」


 彼女には本当に申し訳ないことをしたと思っている。

 彼女は俺のことを想って気持ちを伝えてくれた。

 でも、俺は彼女のことを知らないし興味もない。

 そんな状態で彼女と付き合ってもきっと楽しくはないし、なにより彼女に失礼だろう。

 だから俺は彼女の気持ちに応えることは出来ない。

 その後も告白は何回かされた。

 告白をされて相手を振る、という行為。

 だけど、それはみんな俺の知らない子たちからだった。




 高校受験に無事に合格し、俺は晴れて華野高等学校に進学することができた。

 まず、俺が確認したのはクラス表。知ってるやつは…いないな。

 中学のときに告白を何度かされてから、俺は何度もその告白を断ってきた。

 だから、その子たちと一緒の高校に行かないように俺はあえて家からできるだけ遠く、通える距離のこの高校を選んだ。

 クラスに入ってまず、目に入ったのは仲のいい女子二人と男子一人のグループ。

 もうそんなに仲良くなったのか。早いな。


 「何でまたみんな一緒なんだろうね」


 「幼馴染だからでしょ」


 「幼馴染関係なくない?」


 話し声が少しだけ聞こえてくるが、どうやらあいつらは幼馴染という関係らしい。

 なるほど、それで初日であんなに親しげだったのか。


 「朝香って誰かと付き合うとか考えないの?」


 「いきなりなに?!」


 「え?!俺じゃないの?!」


 「違うでしょ!」


 バシッと頭を叩く音が聞こえてくる。

 羨ましいな。

 あんな風に遠慮なく言いたい事を言い合って、接して、そんな関係が羨ましかった。

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