第50話 お姉ちゃんなのに

 「かき氷みっけー!」


 テンションの上がった佐藤の声が喧騒の中、よく聞こえた。


 「じゃあ、俺らここで待ってるから早く買ってこいよ」


 「りょーかい!」


 そう言って佐藤はかき氷の屋台の列に並びにいった。


 「ねぇ、高橋君」


 佐藤がいなくなったのを見計らって話しかけてきたのは佐倉だった。


 「どうした?」


 「今日、旭と朝香を仲直りさせる予定だったんだけど…」


 「お、おう」


 「どっちかっていうと九十九君と朝香が仲良くなってるよね」


 「そ、そだね」


 「なんで?」


 「なんでって言われてもなぁ…」


 もともと、九十九は旭が呼んだのだが、その理由が伊織と九十九をくっ付けようとするためだなんて目の前の佐倉に言えるわけがない。

 俺が佐倉に言うための理由を考えていると、佐倉は大きなため息をついた。


 「…まぁ、九十九君が旭に相談して手伝ってもらってるって感じなんだろうけどね」


 「何で知ってんの?」


 「女の子はそう言う事に敏感なのだよワトソン君」


 女の子怖い。


 「もう時間ないし、今日は諦めるしかないのかなぁ」


 「まぁ、考えも出てこないし、今日の残りの時間は楽しもうぜ」


 せっかく花火大会に来たんだ。楽しまなきゃ損ってもんだろ。


 「…そう…だね」


 「ん?」


 佐倉の声が急に落ち込んだ。

 いつも旭とは違って明るく振る舞っている彼女が元気がないと少し気になってしまう。


 「どうかしたのか?」


 「…あたし、お姉ちゃんなのに何もできないんだなって思って」


 「何でそうなるんだよ」


 「だって、弟と幼馴染の仲裁すらまともにできてないんだよ?」


 彼女は笑ってみせた。

 けれど、俺には無理をして笑っているようにしか見えなかった。


 「お前のせいじゃないだろ」


 「だって、あたしがもっと良いお姉ちゃんだったら、こうなる事に早めに気づいていたら、こんな拗れた事にならなかったかもしれないのに…」


 佐倉は責任を感じているのだろう。

 一番近くにいながら二人の変化に気づき、対応することができなかった、旭と伊織の関係が拗れてしまった事、それを自分のせいだと、自分の責任だと思っているのだろう。

 でも、それは違うだろ。


 「佐倉からしたら、旭たちはどうしようもないやつなんだな」


 「…へ?」


 「佐倉が何かしてやらないと何もできない、どうする事もできないお子様だって事だろ?」


 自分の友人を悪く言うのは決して良い気はしない。


 「ち、違う!」


 「何が?だって佐倉が言ってるのってそう言う事だろ?」


 「旭たちをバカにしないで!」


 本当はもっと大きな声で叫びたいのだろう。

 しかし、頭は冷静なのか、その声は抑え気味だった。


 「だったらその『旭たち』をもう少し信用しろよ」


 「…どう言う事?」


 理解できない、そんな顔で俺に問いかけてくる。


 「旭と伊織はもう子供じゃないんだから。自分で判断して自分で行動できる大人だよ。だから佐倉が全部どうにかしようとするのは違うし、あいつらにとっても良くはないだろ」


 「…」


 「本当にあいつらを大事に思ってるなら、あいつらを信じて待ってみるのもありなんじゃないか?」


 我ながら臭いセリフを言ってしまったものだ。やっぱり、慣れないことはするもんじゃないな。


 「その結果、良くなろうが悪くなろうが、それは決して佐倉のせいなんかじゃないし、佐倉が責任を感じる必要もない」


 「…そうなのかな?」


 「そうだよ。見守ってやろう、ぐらいの考えでいればいいんだよ」


 「…そっ…か」


 「かき氷買ってきたぜー!」


 重い空気に軽いノリで入ってきた佐藤のせいなのかおかげなのか、その空気は霧散していった。

 まぁ、言いたいことは言い終わったし別に良いんだが。


 「うあっやべぇ!キーンとキタァ!」


 「…んじゃ、後は適当に何か買って旭を呼ぼうぜ」


 「…うん」


 さっそく買ったかき氷を食べて一人騒いでいる佐藤を無視して佐倉にそう言った。

 佐倉は返事はしたものの、俺をみることはなかった。

 怒らせてしまっただろうか。

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