第33話 注目
「今よろしいですか?佐倉君」
午後の授業も終わり、学生たちの自由時間がやってきた。
クラスメイトは鞄に荷物を積める手を止め静かに声の主を見る。
生徒副会長、雨宮音羽。
一年生には縁のない大物がやってきたことにより雨宮先輩は今、注目を浴びている。
「佐倉君?」
俺が反応しないことを不安に感じたのか、もう一度俺の名前を呼ぶ。
それにより雨宮先輩への視線は俺に注がれる。ひぇぇ。
「…えっと、何の御用ですか?」
「少しお話がありますので来ていただけると助かります」
「断ることは?」
「何かご予定が?」
「…いえ、ないです」
ここまで、彼女は常に笑顔のままだった。
別に悪意のある笑みとかそういうのではなく、いたって普通の笑みなのだが、逆にそれが怖い。俺、なんかしたかな?
「では、いきましょう」
「…うっす」
普段浴びることのない注目に俺は縮こまりながら、前を堂々と歩く雨宮先輩の後ろをついていく。
人気がだんだんなくなってきたあたりで雨宮先輩は歩くスピードを落とす。
「ごめんね。急に呼び出して」
教室で見せたキッチリとした態度ではなく、砕けた話し方になる。
「いや、いいんですけど、呼び出し方なんとかなりません?」
「放送で呼び出したほうがいい?」
「何でもっと派手になるんですか。メッセージ送ってくれればこっちから行きますよ」
「だって私、佐倉君の連絡先しらないもん」
「あっ」
そういえば交換してなかった。
次もあんな感じで来られると俺の精神がすり減って消えてしまいそうなので、とりあえず連絡先を交換しておく。
「それで、話って何ですか?」
スマホを確認しながらそう聞く。
それを聞いた雨宮先輩はそっと息を吐いて廊下の窓を開け、枠に寄りかかって外を見た。
それに倣って俺も距離を少し開けて窓の外を見る。
放課後の時間を楽しむために学校から離れていく生徒たちで賑やかだった。
「もうすぐ夏休みだね」
「そうですね」
外から吹く風にあたり、涼しげに先輩は目を細める。
「夏休み中も生徒会は活動するんだよねぇ」
「そうなんですか。頑張ってくださいね。それじゃ」
踵を返しこの場からの離脱を試みようとしたが、手をがっちりホールドされてしまった。
「暑苦しいんで離れてください」
「女の子にくっつかれて第一声がそれってどうなの?」
「あっつ…」
「それ、マジの反応だね」
いや、たしかに柔らかいしいい匂いするし精神ゴリゴリ削られてるけど俺の鋼の心は簡単には砕けないぜ。あ、無理かも、このまま腕揺すってクッションを堪能してもいいですか?
「いや、だって夏休み中も来いって言うんでしょ?」
「そうそう」
先輩は俺の腕を離してそういう。あぁ、クッションが…。
「夏休み中はゴロゴロしながらゲームするって決めてるんですよ」
「それ、働くって言ってる人の前で言う?」
夏休み中まで手伝うなんて話聞いていない。
俺はクーラーの効いた部屋でだらけていたいんだ。
「お願い!私をあの空間に置いていかないで!」
「あんたそれが本音だろ?!」
結局、会長と会計さんの甘々な空間にいたくないだけだった。
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