第34話 その友人

 旭が副会長に連れていかれた。

 いったいあいつは何をやらかしたんだ…。

 しかし、旭がいない今、これはチャンスだ。

 俺は教室を見回して目的の人物を探す。いた。

 九十九たち男子数名が伊織と佐倉、他女子数名が話しているのを発見した。あのグループあんなに人いたっけ?

 話が落ち着くまで会話の内容に聞き耳を立てる。


 「今からカラオケいこーぜ!」


 「いいじゃん!賛成!」


 周囲が賛成し始めたところで九十九が伊織を見る。


 「伊織と佐倉はどうする?」


 「あたしは行ってもいいけど、朝香は?」


 「…」


 「朝香?」


 「へ?!な、なに?」


 「カラオケ、みんなで行かない?」


 「あ、えと…うん、いいよ」


 「よっしゃ!いくぞ!」


 「早く準備しろー!」


 ちょ、待って!俺そのグループに話したい人いるんだけど?!

 俺は急いでスマホのロックを解除して、メッセージアプリからクラスのグループを選択した。

 そのグループ経由で連絡先を速攻で登録し、電話をかける。


 「ん?」


 彼女は周りをキョロキョロと見渡し俺と目が合う。

 俺はアイコンタクトで話がしたい旨を伝えた。


 「あーちょっと先生に提出しないといけないものあるから先行ってて!」


 「おいおい、しっかりしろよなー」


 「あははー、ごめんね、すぐ戻るから!」


 俺のアイコンタクトがうまく理解できたのか、通話を拒否し、グループの人たちにそう言う。

 俺はそれを確認して教室から出る。

 後ろをチラッと見ると彼女は無言で俺の後ろをついてきてくれていた。




 「それで、なにかな?高橋君」


 校舎横の駐輪場。そこを少しいくと人気がなく、風通しの良い隠れスポット的な場所がある。

 もちろん、今ここにいるのは彼女と俺の二人。


 「悪かったな佐倉。急に呼び出して」


 佐倉陽葵。旭の双子の姉であり、クラスメイト。


 「別に良いよ。それで、要件は?」


 彼女の茶髪が風に揺れる。

 なぜここに呼び出されたのかわからない、そういった疑問の目は旭に少し似ている気がした。

 ふっと肺に溜まった息を出し、彼女に向き合う。


 「旭と伊織になにがあったんだ?」


 旭には言いたくないなら言わなくて良い、みたいなことを言ったが、最近の旭は伊織のことになると決まって諦めたような顔になる。それがおもしろくない。


 「…どうしたの?何か旭が言ってたの?」


 「いや、俺が個人的に聞きたいだけだ」


 佐倉は疑いの眼差しを向けてくる。


 「なにもないよ」


 「さすがにそれは無理があるかと」


 「何でそんなに気になるの?」


 真面目な顔になり、まっすぐに俺を見てくる。


 「なんとなく、ほっとけなくなった」


 「え?」


 「それに、俺はあいつとバカやってたいんだよ。バカな事して、バカな話して面白おかしく学校生活を過ごしたいんだよ。」


 別に俺は恋愛なんかできなくたっていい。野郎と一緒にバカできればそれでいいんだ。

 だから旭には元気でいてもらわなきゃ困る。


 「…だから、あいつが元気じゃないのは見過ごせない」


 「…そっか」


 佐倉は近くの壁に背中を預け、空を見上げる。


 「旭はいい友達をもったねぇ」


 「まぁな」


 「自分で言っちゃうんだ」


 そう言って佐倉はおかしそうに笑う。


 「いいよ、教えてあげるよ」


 「え、まじ?」


 「いや、そっちから聞いてきたんじゃん」


 それはそうだけど、そんな簡単に教えてくれるとは思っていなかった。




 「はぇーそんなことがねぇ」


 「いろいろあったらしいよ」


 あれから佐倉は旭と伊織の関係の変化の理由を語ってくれた。


 「伊織は嫉妬していたのか?」


 「うん、だと思うよ」


 旭が最近付き合いが悪かった。伊織は旭に用事があるんだと思っていたけど実際は他の女の子と仲良くなっていた、と。


 「ちょっとまって」


 「ん?」


 「思ってたよりしょうもない」


 「あはは…うん」


 改めて整理してみると本当にしょうもない。なんかもっと、ものすごい喧嘩してるのかと思ってたわ。


 「でも、あたし達にとってはどうでもよくても、旭達にとっては大事件だったんだよ」


 それはそうだ。じゃなきゃこんな面倒くさいことになっていない。


 「でもさ、あたしは旭も悪いと思ってるんだよね」


 「ほう」


 「だってさ、今まで自分のこと好きだって言ってたのに急に他の女の子と仲良くなってるんだよ?女の子としては複雑だよ」


 やべぇ、今後そうならないように俺も気をつけよう。ありがとう旭。お前のことは忘れない。


 「今回は歯車がうまく噛み合っちゃったんだよ」


 「どゆこと?」


 「旭は相手の言葉をしっかり受け止めてくれるんだよ」


 「そうなのか?適当に流されてるようにしか感じないが」


 まぁ、それが気楽で面白いからいいんだが。


 「旭は変化に気づきやすいんだ。だから高橋君もいつか本当に困ってたら旭は多分、気にかけるよ」


 「へぇ」


 まぁ、まだ出会って一年も経ってないからな。ずっと一緒にいたからわかることだってあるだろう。


 「旭は朝香の言葉を受け止めた」


 「だから伊織に嫌われていると思った。そして距離をとり始めた、と」


 「そういうこと」


 なるほど、だから噛み合ったと。


 「人間関係ってこんなに簡単に変わっちゃうんだね」


 人間関係は作るのは大変だが壊すのは簡単だ。こういう小さな事で築き上げたものがすぐに崩れ去る。


 「佐倉はどうするんだ?仲裁でもするのか?」


 「あたしは…そうだね、そんな感じ」


 「んじゃ、俺も出来るだけ協力するよ」


 「そっか、ありがとね」


 「いや、こっちこそごめん。みんなで遊びに行く途中だったのに」


 「別にカラオケなら途中からでも参加できるしいいよ」


 そう言って一人校舎の方へ向かっていく。


 「それじゃあ、これからよろしくね。高橋君」


 「了解、こちらこそ」


 こうして俺たちは伊織と旭の関係を修復するために協力し合うことになった。


 「あっ」


 「ん?なんかあった?」


 「あ、いや、なんでもない」


 九十九の協力もするんだった…。

 あれ?一番面倒くさいことになってるの俺じゃね?

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