第25話 君の課題

 「―さい!」


 「―ね―よ」


 学校に行く途中、狭い路地のほうから男女のもめているような声が聞こえてきた。

 一番想像しやすいのが女の人が男の人に襲われている光景。

 いや、現実でそんなことないでしょ。どこのラブコメよ。

 そもそも気のせいかもしれないし、聞き間違いをしただけかもしれない。


 「―や!やめて!」


 「…」


 面倒くさい。

 このジメジメした中、なんで路地なんかでもめてるんだよ。Mなの?そういう趣味なの?

 どうせこのまま無視しても後で気になるだけだ。

 声のしたほうに歩みを進め、ある程度近づいたところで気づかれないように、そっと路地を覗く。


 「静かにしろ!だれかきちまうだろ!」


 「んー!んー!」


 「うわぁ…」


 そこそこ体がでかい男が女の子の口を押さえている。

 ほんとにやってるよ。まじで?こういうことする人って何がしたいの?

 …しょうがない、やれることはやってみるか。

 俺はため息をついて気を落ち着けた後、息を大きく吸った。


 「お巡りさ~ん、こっちこっち、早く!」


 「「?!」」


 二人は俺の存在に気づいて大きく目を見開いた。

 男が今の状況を理解したのか俺のほうを睨みつけてきた。


 「ちっ!くそっ!」


 そう言って女の子から手を放して反対の路地から出て行った。

 女の子はその場に立ち尽くしてしまっている。


 「君も早く逃げたほうがいいよ」


 「え?だって警察の人が来るんじゃ…」


 「あぁ、あれ、嘘だから」


 「え?!」


 「…」


 「…」


 「はったりだから」


 「え、あ、はい」


 「おけ、んじゃ」


 「え、あ、ちょっと?!」


 俺は女の子の制止を聞かずに走って学校に向かう。

 ぜひお礼をさせてください!なんてめんどくさい展開を俺は求めていない。

 というか、俺は「お巡りさ~ん」って叫んだだけだし、むしろ助けを求めてたからね。

 後ろからなんか聞こえるが無視だ無視。

 



 「高橋、悲しいお知らせがあるぞ」


 「嫌な予感しかしない」


 学校について鞄をごそごそとあさりながら高橋に言う。

 鞄から取り出したものは今日が提出期限の課題。


 「お、ちゃんと俺の答え写してきたか」


 「あぁ、サンキューな」


 「おう、んで、お知らせって何?てか俺の課題は?」


 「悲報!高橋の課題を失くした!」


 「は?!何してんだお前!」


 今日の朝、鞄の中を確認したときは入っているのを見た。ということは登校中に落としたか?


 「ジュースおごるから許して☆」


 「はぁ…」


 怒られることが確定した高橋は大きくため息をついた。


 「高橋」


 「…なんだよ」


 「俺に課題を渡したことが間違いだったな」


 「なんでお前がえらそうにしてんだよ、お前覚悟しとけよ」


 「いや、今回はマジで悪いと思ってる」


 ごめんね。

 




 「それで、課題を持ってきていないのは高橋だけか」


 「はい…」


 みんなの前で立たされている高橋は先生の前で小さく縮こまっていた。


 「珍しいな、成績はともかく、課題だけは忘れずに持ってきていただろう」


 「あ、言い訳をさせてください」


 「いいだろう」


 怖いと噂の現社の先生に言い訳をしようとするその心意気やよし。骨は拾っておくぞ。


 「旭に課題を貸したら失くされたんです」


 「ふぁ?!」


 「…ほう?」


 高橋の言葉を聞いてこちらを振り向く先生。


 「佐倉君、どういうことだい?」


 「追加課題で勘弁してください」


 私は追加の課題をご所望です。




 「結局、高橋はおとがめなしかよ」


 「まぁ、もともとお前が悪いからな」


 放課後、落ちた気分で鞄に物を詰めながらため息をつく。


 「バカじゃないの?」


 「あなたの弟ですよ」


 「やめて」


 姉弟であることを嫌がられた。ぴえん。

 俺たちが駄弁っていると、他クラスの生徒が教室に入ってきた。


 「高橋流歌ってやついるか?」


 「ん?俺だけど…」


 「なんか校門の前で女の子が呼んでるぞ」


 そう言ってその生徒は出て行った。


 「は?だれ?」


 「とりあえず行ってみようぜ」


 「あ、あぁ」


 高橋を呼ぶ女の子が待つ校門に向かうために下駄箱で靴を履き替える。

 靴を取り出したところでふと気づいたことを高橋に言う。


 「俺は関係ないからちょっと後からついていったほうがいいかもしれないな。大事な話だったら申しわけないし」


 「あぁ、それもそうだな。というか誰なんだ?女の子って…」


 「さぁ」


 「まさか、とうとう俺にも春が?!」


 急にテンションが上がり始めた高橋。

 なんだこいつ。放課後にどっからそんな元気が出てくるんだよ。

 高橋は「じゃ!」と言って校門のほうに向かっていった。




 数分玄関でスマホをいじった後に校門のほうに向かう。

 さて、高橋に春は訪れるのか?このあとすぐ!

 校門のほうに小さな人だかりができているのが見える。

 その人だかりに近づくと中心に高橋とこの学校ではない制服を着た女の子が微妙な空気の中お互い見合っていた。

 あぁ、これかかわらないほうがいいな。本能がそう告げている。

 俺は知らないふりをしてその横を通り過ぎていく。


 「あっ!見つけた!」


 おそらくさっきの女の子の声だろう。お目当ての物を見つけることが出来たようだ。よかったねぇ。

 気にはなるが振り返らずに帰路へとつく。内容は後で高橋に聞けばいいだろう。

 そう思って道を歩いていると俺の前に小さな人影が現れた。


 「待ってください!お話があります!」


 さっきの女の子が俺の前に立ちはだかった。


 「えーっと、人違いでは?」


 「そんなことないです!」


 そんなことないらしい。誰?ほんとに誰?


 「あなたが高橋流歌さんですか?!」


 「え?」


 「え?」


 んーっと…え?

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