第24話 振られたもの
雨の日が多くなってきて、本格的に梅雨の季節がやってきた。
じめじめした空気がまとわりついて非常に不快な季節である。
そんな季節に俺は学校の倉庫にいた。
「あっつ」
「あはは、ごめんね」
狭く、空気の通りが悪い空間で少し不機嫌そうにつぶやく俺に、雨宮先輩は申し訳なさそうにしてきた。
「まぁ、別に雨宮先輩が悪いわけじゃないですよ」
「そう言ってくれると助かるかな」
放課後、俺は生徒会に仕事を手伝ってほしい、とのことで呼び出しを受けていた。
これからやる文化祭の準備のために、倉庫の物を確認するためらしい。
「文化祭って夏休みの後ですよね?」
「うん、そうだよ」
「準備するにはちょっとはやいんじゃないっすか?」
「まぁ、確かにちょっと早いかもだね」
「ではなぜ?」
別に急がなくてもいいならこんな日にやらなくてもいんじゃないか。そういう意味も込めて雨宮先輩に聞いてみる。
「いやぁ、そのぉ…」
「ん?」
明らかに挙動不審になる雨宮先輩。いったい何があるのだろうか。
「あの空間にいるのはちょっと…」
「あの空間?…あぁ」
あの空間、とは生徒会室の会長と羽月先輩のいる空間のことだろう。
雨宮先輩はおそらくだが皇先輩に恋していたのだろう。しかし、先輩の恋は実らなかった。皇先輩と羽月先輩が付き合っているからだ。
あの空間は先輩にとってはただの毒でしかない。そんな空間から逃げるために仕事を作ったのだろう。
「雨宮先輩はそれでいいんですか?」
『…お前はそれでいいのか?』
高橋からも聞かれたこと。
俺と先輩は少し似た境遇にいる。そんな先輩は今の状況についてどう思っているのか、少し気になった。
「私は別に…というか、佐倉君、気づいてたの?」
「逆に気づかないほうが不思議かと」
「…恥ずかしい」
少し頬を朱に染め、目をそらす雨宮先輩。
この先輩に皇先輩は落ちなかったのか。好みが違ったのかな。
「私なんかが勝てる相手じゃないよ」
「なんか、なんて言わないでくださいよ。先輩は普通に魅力的ですって」
「ふふ、ありがとう」
そう言って笑って見せる先輩。
マジでなんであの人落ちなかったの?すっごいかわいいんですけど。
「そういう佐倉君はどうなの?好きな人とかいないの?」
「いますよ。諦めましたけど」
「…え?」
驚くいたような顔になる先輩に、できるだけ優しく笑いかける。
「他に好きな人がいるらしいです。だから俺はそもそも興味を持たれてないんですよ」
「そっか…」
申し訳なさそうにこちらを見る先輩。そんな顔しないでくださいよ。
「じゃあ、私たち結構似た者同士なのかもね」
「全然うれしくない…」
「あはは…」
そういってお互い倉庫の物の確認を再開する。
「私はさ…」
ある程度確認が進んだ頃、雨宮先輩が口を開いた。
「こういうことが話せる人がいて、よかったなって少し思っちゃった」
「…そんなもんですか?」
「そんなもんだよ」
得意げに言う先輩は未練なんてなさそうな顔をしていた。
すごいな。
俺は未だに未練たらたらなのに。同じような状況で先輩は自分を強く持っていた。
「そうだ!私たちは『振られたもの同好会』だよ!」
唐突にそんな訳の分からない同好会に勝手に入れようとしないでいただきたい。
「頭悪そうですね」
「ひどい!私たちはもう仲間なんだよ?!」
なんと、俺はもう同好会に入れられているらしい。すっごい嫌だ。
「仲間なのはいいですけど、名前どうにかならないですか?」
「うーん、佐倉君はなんかいいの思いつかないの?」
「『負け犬』」
「絶対に嫌」
絶対に嫌らしい。
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