第18話 しっかり待ってるわ

 「今から委員会を決める」


 楽しい昼食の時間が終わり、午後の授業が始まる。


 「委員会は全員入ってもらうことになっている」


 「は?」


 「おい、誰だ今の」


 やべ、無意識に出ちゃってたわ。小さい声だったからよかった。


 「まぁいい。黒板に委員会の一覧書き出すから。早い者勝ちだ」


 「はい先生」


 「わかった、保健委員な」


 「え、ちょ」


 質問しようとしたら勝手に保健委員にされた。


 「いや、質問しようとしただけなんですけど」


 「なんだ、保健委員を書き出した瞬間に挙手したからそうなのかと」


 なるほど、タイミングが悪かっただけか。ならしかたない。


 「んじゃ、取り消してください」


 「それはできない相談だ」


 おい、ふざけんな。

 その後も俺の意見が聞き入れられることはなかった。




 「そういえば旭は部活動説明会行くの?」


 保健委員に就任後。われらのフリータイム、放課後がやってくるとすぐ、陽葵が話しかけてきた。


 「いんや、このまま帰るよ」


 帰ってはやくゲームがしたいでござる。今日は帰ってアぺクスというFPSゲームをするつもりだ。


 「陽葵はどうなんだ?」


 「うーん、あたしは見るだけ見てみようかなぁ」


 「ほーん、んじゃ帰りは遅くなるのか?」


 「うん、だからおねがいね~」


 「わかった、腹すかせて待ってるわ」


 「いや、準備しとけ?働け?」


 しっかり何もせずに留守番することを伝えたら怒られてしまった。なぜだ。


 「なんだ、弟のほうは説明会に行かないのか。ちょうどよかった」


 陽葵と俺の会話に三島先生が入ってくる。ん?ちょうどよかった?


 「あぁそうなんです。では、また明日。さようなら」


 「待て、お前には少し用事があるんだ」


 ほんとに最近、放課後イベント多くないか?

 俺はこの後帰ってコントローラーを握らないといけないという使命がある。このまま言うことを聞くわけにはいかない。


 「いや、俺この後買い物行ったり飯作ったりと忙しいので…」


 「あー旭も忙しいならあたし、帰りにお弁当買っていくよ」


 「だ、そうだ」


 「ひまりぃ~!」


 俺の完璧な理由が相殺されてしまった。


 「じゃ、弟借りてくぞ」


 「どうぞー!雑用にでも使ってやってください!」


 「おい」


 こいつ、他人事だと思って言いたい放題いいやがって。陽葵が昨日買ってきたプリン食べてやる。

 



 「それで先生。何の用ですか」


 「まぁ、そう不機嫌になるな」


 大事な放課後がつぶれたことで少し不機嫌なのが態度に出てしまっていたようだ。

 俺は小さくため息をつく。


 「もういいですよ。それで、僕をどうするつもりで?」


 「用があるのは私じゃない」


 「は?」


 「この学校の生徒会長だ」


 「あ、用事思い出したんでこれで」


 「お前に用事がないことは確認済みだ」


 最後のあがきが無に帰す。


 「あの、僕、生徒会長に会ったことすらないんですけど」


 「だろうな」


 「じゃ、そういうことで」


 踵を返し来た道を戻る。


 「待て、生徒会室はもうすぐそこだ」


 「ぐぇ」


 襟をつかまれ変な声が出てしまう。

 どうやら逃げることは許されないようだ。にしても生徒会長か…俺に何の用だ?特に問題を起こしたつもりはないが…。


 「ついたぞ」


 そうこう考えているうちに目的地に到着したようだ。

 扉には「生徒会」と書かれたプレートが掛けてあった。

 おかしい。プレートが掛けてあってほかの教室とは変わらない扉なのに謎の圧力を感じる。


 「じゃ、私はしっかり届けたからな」


 そう言い来た道を戻ろうとする先生。


 「いやいや、ここで帰ります?中まで行きましょうよ」


 「いいから行け。私はこれから書類の整理をしなければならないんだ」


 まじか。この魔王城の扉みたいなものを俺一人で開けるのか。先生がいなくなったらこっそり帰ろうかな。


 「ちなみに、お前が中に入らなかったら生徒会長から私に連絡が来るようになっている。わかっているな?」


 「oh…」


 逃げ道は閉ざされた。どうやら俺は初期装備のままラスボスに挑まなければならないようだ。

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