第17話 大きいですね…

 昼休み。陽葵は弁当を持て伊織の席に向かって、高橋は俺の席に近づいてきた。


 「お前らなんかあったの?」


 「まぁ、いろいろなぁ」


 コンビニで買ってきたおにぎりの袋を開けながら答える。


 「へぇ」


 「興味なさそうだな」


 「言わないってことは聞くなってことだろ?」


 こいつ、高橋か?別のそっくりなイケメンかなんかじゃないのか?


 「楓ちゃ~ん!一緒にお昼食べよ~!」


 「ふぇ?!」


 隣の席からすごい音が鳴ったので見てみると、そこには女子生徒に後ろから抱き着かれてつぶれている皇さんがいた。


 「あれ?小野寺さんって皇さんと仲いいんだっけ?」


 「そうだよー!私たちこういう仲なのー!」


 そう言い皇さんの頭を胸に押し付ける小野寺さん。お、大きいですね。

 固定された頭をどうにか動かし、俺に「help!」の目線を送る皇さん。いや、無理だわ。どうしろと?そこに手を突っ込めと?いいんですか?

 その皇さんに気づいたのか小野寺さんは俺のほうを見る。


 「そういえば、楓ちゃんって佐倉君になついてるよね。この前の朝も佐倉君に助けを求めてたし」


 助けを求められたというより殺しにかかられたのほうが正しいような。あの時マジで死ぬかと思ったわ。


 「俺が育てた大切な娘だからな」


 「えぇ?!」


 「え、ちょっとキモイ」


 小野寺さん?あなたちょっと口が悪いわよ?


 「お義父さん!俺に娘さんをください!」


 「えぇ?!」


 「貴様になどやらん」


 隣で黙っていた高橋がいきなり頭を下げてきた。貴様にはやらん、高橋だからな。


 「それなら私にください!」


 「お前はさっきキモイって言ったからダメ」


 小野寺さん結構ノリいいね。


 「私の手作りハンバーグあげるから!」


 「いいだろう」


 「えぇ?!」


 「やったー!」


 皇さん、さっきから「えぇ?!」って驚いてしかいないんだよな。

 そんな皇さんをハンバーグと交換した俺はさっそく食べてみる。実食!


 「おぉ、うめぇ」


 普通にうまかった。


 「えへへ、ありがと」


 「お前、女子の手作り料理食えるなんて…」


 「うまかったぞ」


 「野郎」


 高橋がうらやましそうに見てたので挑発してみる。高橋、こんなことで怒っているようじゃ手作り料理なんて無理だぞ。


 「そ、そういえば佐倉くん…!」


 「ん?」


 ここで、ようやく「えぇ?!」以外をしゃべりだした皇さん。


 「その…佐倉さんはお弁当なのに佐倉くんはお弁当じゃないの?」


 「あぁ、確かになんで?」


 やっぱり疑問に思うのだろう。陽葵が弁当なら俺も普通は弁当なんじゃないかと。

 でも理由は簡単だ。


 「陽葵は自分で作ってるんだよ」


 「旭は作らないのか?」


 「めんどいじゃん」


 「あぁ…」


 「あはは…」


 陽葵に一度作ってくれないか頼んでみたが、一回五百円とかふざけたことをぬかしやがるのでゲーセンのメダルを腹いせに弁当に突っ込んでやった。その日の晩は飯が出てこなかった。


 「楓ちゃんは手作り?」


 「う、うん、お兄ちゃんの分も一緒に…」


 「楓ちゃん、お兄さんいるんだ」


 お弁当を作ってくれる妹か。いいなぁ。


 「いいなぁ…」


 「え?」


 「お前には姉がいるだろ?」


 「はたして、あれを姉と呼べるのだろうか」


 「陽葵ちゃんかわいそー」


 他愛もない話をしながら昼休みを過ごす。

 伊織がいないのは少し残念だが、不思議と気持ちは軽くなっていく一方だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る