第16話 姉弟
「おっす旭」
「おー高橋か」
入学式から一週間。ゲームマスターの月曜日は社会人や学生たちを家から引きずり出し、月火水木金を我々に戦わせるのだ。これは毎週行われるため、我々は月曜日が来るたびに憂鬱になるのだ。
もちろん、この変な考えも月曜日のせいだ。決して俺の頭がおかしくなっているわけではない。
「そういえば、今日は早いな。佐倉さんと伊織さんは?」
「あー今日から俺だけ早めに登校しようと思ってな」
「それはなぜ?」
「遅刻しないため」
「さすがに早すぎない?」
「そうか?」
俺は今日から伊織と距離を置くために登校の時間を早めにした。
一人早めに家を出るというのもなかなか悪くはない。こうして朝のホームルームが始まるまでゆっくりできるからな。
「まぁ、そんなもんか」
「そんなもんだ」
高橋はそれ以上聞いては来なかった。こういうところが好感を持てるな。さすが高橋。
「そういえば今日、部活動説明会だけど、お前は何見に行くか決めてるのか?」
「いやなんも。俺は帰ってゲームがしたい」
別にスポーツが嫌なわけではないが、大会なんかを目指すようなガチガチの練習をするのが嫌なだけだ。部活動でスポーツをするより休日に適当な時間にゆるくやるほうが俺にはあっている。
「高橋はどうなんだ?」
「ん-俺もいいかな。旭がやるならやろうかなぐらいにしか考えてなかったし」
「お前、俺のこと好きすぎない?」
「殴るぞ?」
そんな誤解されるような言い方するほうが悪い。
高橋と雑談をしていると伊織と陽葵が教室に入ってきた。もうそんな時間か。
「お、二人も来たみたいだな」
「みたいだな。お前も席に戻ったほがいいんじゃないか」
「だな、じゃ、またあとで」
そう言って高橋は自分の席に向かうのと同時に陽葵が俺の後ろの席に着き、目を合わせずに話してくる。
「朝香から大体は聞いたよ」
「…そうか」
俺も教室の外を見ながら答える。
いい空だ。昼寝したら気持ちいだろうな。
「あたしは朝香の親友だから」
「しってる」
「あたしは朝香の味方だから」
「…しってる」
知ってる。何年お前らと幼馴染やってるとおもってるんだ。お前が朝香の敵になるなんてありえない。
「…でも、あたしは旭の敵にはならないよ」
「……はぁ?」
間抜けな声が出た。そんなことを言われるとは思ってもいなかったからだ。
思わず陽葵のほうを向いてしまう。
陽葵は俺と目を合わせると大きなため息をついた。なんでやねん。
「こんなバカでもあたしの弟だからね~。嫌いになんてなれないよ」
やれやれ、といった感じでそういう。
「あたしはあんたのお姉ちゃんだからね!」
そう言って俺に向けて指をビシッと指す。何言ってるんだこいつ?
「だから、なんかあったらいいなよ?」
大人びた顔でいう彼女。
そう言えば、こんな感じで今までも救われてたな。このまぶしい笑顔と性格、昔から変わらない。
「…フッ」
「な、なによ。あたし、結構まじめな話してたんだけど?」
「陽葵のくせに姉みたいだなって」
「お姉ちゃんなんだけど!?」
なにかギャーギャー言っている陽葵を無視して前のほうに向きなおる。
「陽葵」
「…なによ」
前を向いたまま陽葵を呼ぶ。
「ありがとな」
「…最初からそう言えバカ」
ケツに衝撃が走る。どうやら陽葵が俺の椅子を蹴ったようだ。
それ以降、俺も彼女も話をすることはなかったが、俺の心は幾分か軽くなったように感じた。
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