第14話 好きってなんだろう
「あなた、なまえなんていうの?」
公園の砂場、お母さんたちが話をしている間に私は一人、砂場で遊んでいた。
「わたし、ひまり!さくらひまり!」
そんな私に話しかけてきたのは陽葵だった。
「あなたなまえは?」
「…いおりあさか」
「あさかね!いっしょにあそぼ!」
「…うん!」
うれしかった。人見知りだった私に初めての遊び相手が出来たのだ。
「おねえちゃん、ひとりでいっちゃダメだって!」
「あさひ!ほら!おともだちできたの!あさひもじこしょーかいしなさい!」
「えぇ…」
後から来た男の子。陽葵の双子の弟、旭だった。
中学に上がっても私達三人は一緒だった。
陽葵と旭はとてもいい友達だ。こんな私と一緒にいてくれる。それだけで私は幸せだった。
陽葵は気遣いができる子で、いつも私と旭を気にかけてくれるお姉ちゃんのような存在だった。
旭は少しの変化にすぐ気づく子だった。私や陽葵が悩んでいると、顔や態度に出していないつもりでも気づかれてしまう。
本当に、この二人には助けられてばかりだ。
「朝香!お前が好きだ!付き合ってくれ!」
中学最後の夏、私は旭に告白された。
急にそんなこと言われても、旭を異性としてみたことがなかったから断ってしまった。
でも、こういうのはしっかり向き合わないと相手に失礼だから適当に答えちゃダメなんだと思う。よくわからないまま付き合ってもきっと後悔するだけだ。
失恋っていうのは私にはまだわからないけれど、きっと辛いんだと思う。もう、その人としゃべらなくなったりするって聞くし…。
でも、旭は違った。
あれ以来、旭は私に対して「好き」という感情を隠さなくなった。みんなにからかわれもしたが、旭と疎遠にならなくてよかったなと恥辱より安心のほうが強かった。
高校生になっても私たちは一緒だった。このままずっと仲良く過ごしていきたいな。
でも、その願いは叶わなかった。
入学式が終わってから、旭と話す機会が極端に減った。それでも二日間くらい話さなかったくらいなのだが学校があるのに二日も行動を共にしないのは初めてだったかも。
だったら帰りにお話ししよう、そう軽い気持ちで旭を帰りに誘ってみる。なんで旭はコソコソしているんだろう?
「今日は一緒に帰ろう?旭と最近一緒じゃなかった気がするから…」
「あー悪いけど今からちょっと用事があるんだわ。先帰っててくれ」
旭にだって用事くらいあるだろう。今日がだめなら明日誘えばいい。そう思った。
「ううん、気にしないで」
そう、こたえるしかなかった。
次の日、登校中の旭の様子が変だった。
「旭?」
声をかけても返事がなかった。陽葵と目を合わせると「もっと大きい声で」とアイコンタクトが飛んできた。
「旭!」
「ヴェアァァァァ?!」
「な、なに?!」
大き目の声で呼ぶと変な声を出した。びっくりした。
「何か考え事?」
そう聞くと旭はぼーっとした顔で口を開いた。
「まぁ、おんな…あ」
「…女?」
女の子?クラスの女の子についてでも考えていたんだろうか。…なんかモヤっとする。
「いや、おんなじクラスに友人ができるか不安だったんだよな!」
これは嘘だ。なんとなくわかる。幼なじみだからだろうか。
結局、旭の考えについては分からないままだった。
その日のお昼休み。今度は昼食に誘ってみようと思い、高橋君と旭と陽葵の席に向かう。
すると旭がいち早くこちらに気づいた。
「どうした高橋。お前の席はないぞ」
「酷ぇなお前」
本当に旭は高橋君の扱いがひどいと思う。友達は大切にしないとだめだよ。
「お昼一緒に食べようかなって思ってきたんだけど」
そう誘ってみる。
「お、いいじゃんいいじゃん!旭もいいでしょ?」
陽葵が言う。
「あぁ、もちろ――」
旭がそう言いかけて止まる。どうしたんだろう。
「…悪い、今日この後用事があってだな」
「え…」
こんなにも運が悪いことってあるだろうか。でも仕方がない。旭にだって用事があるのだから。
放課後、今度こそ旭を誘おうとして旭の席を見ると旭はいなかった。
「どこにいったの?!」
よく見ると教室の前のほうの扉が開いている。
もしかして、もう出た?
教室を出て廊下を見渡す。するとそこには見覚えのある後姿があった。
私は急いでその背中に声をかけた。
「旭!」
「うぁい?!」
急いでいたからだろうか、思っていたより大きな声が出てしまって驚かせてしまった。ごめんね。
「あ、その、今日は一緒に…帰れる…?」
不安だった。また断られるんじゃないかと思って声が小さくなってしまう。
「あー悪い、今日もちょっと用事あってだな」
「ぇ…」
今日もダメだった。旭は最近何をしているんだろう。モヤモヤする。
次の日、旭は起きてこなかったため陽葵と一緒に先に登校していた。
教室につくと旭の隣の席に見慣れない人がいた。
「皇さんやっと来たんだ!」
「これでみんなそろったね?」
皇楓さん。今まで欠席だった子だ。
小さくてかわいらしい、小動物を連想させる見た目だった。
しばらくすると遅刻ギリギリで旭が登校してきた。
旭が自分の席に向かう。
「どったの?―グハァ?!」
「…え?」
皇さんが旭に抱き着いた…?なんで?
私はその場で固まってしまった。
放課後、忘れ物を取りに来たら夕方になってしまった。
下駄箱で靴を履き替えようとすると声がした。
「あれ?朝香?」
「…え?旭?なんで?」
本当に偶然だった。
「…」
「…」
会話が続かない。気まずい。
「と、とりあえず帰ろうぜ」
「…うん」
旭の提案でとりあえず一緒に帰ることになった。
「なぁ、朝香」
「?!…なに?」
「…お前、何かあったのか?」
「え?」
やっぱり旭は旭なんだなって思った。少しの間、話さなくても旭は変わらなかった。
「…なにも…ない」
でも、旭には話したくない。
旭にモヤモヤしている、なんて言えるわけがない。
「嘘だな」
イラっとした。旭に対して始めた不快に思ったかもしれない。
「なにもないって言ってるじゃない」
冷静じゃないのか、少し強めに言ってしまう。
「何もないことないだろ?何年お前と幼馴染やってると思ってんだ」
あぁ、やっぱり旭はすごいや。いつも私の変化に気づいてくれる。
でも、今だけはやめてほしかった。
「…しつこい」
「え?」
「しつこいのよ!」
「?!」
私は限界だった。ずっと私の誘いを断っていたのに。知らない間に別の女の子と仲良くなってたり。不満はいっぱいだった。
だから、一度漏れ出た不満は止まることはなかった。
「もう、鬱陶しいのよ!」
やめて。
「私には好きな人がいるんだから!」
止まって。
「もう私にかまわないで!」
こんなことを言うつもりじゃなかった。
ただ仲良く話をしたかっただけなのに、どうしてこんなことに。
それ以前に、私はなぜこんなにも旭のことでモヤモヤとかイライラとかしているのだろう。
その答えを出す前に、私と旭の関係は崩れてしまった。
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