第13話 幼馴染の拒絶
ホームルームが終わり、放課後となった今。これから遊びに行ったり買い物に行ったりするのが学生だったりするのだが、その学生の俺は職員室に呼び出されていた。なんか最近放課後イベント多くない?
呼び出したのは三島先生。職員室に入り三島先生に用事があることを表明して休憩室に通される。
すぐ来る、とのことだったが俺はバッグから渡された課題を出して少しでも進めてあとで楽しようと問題に目を通す。
しかし、一問目の問題文を読み終えたあたりで目の前に缶コーヒーが二つ置かれたので、仕方なく課題をやめて顔を上げる。
「飲め」
「あざす」
職員室にカシュッと小気味いい音が二つ響いた。
「もう少しゆっくり来ても良かったんですよ。三島先生」
「生徒を待たせるわけにはいかないだろう?」
だったら最初から職員室にいて欲しい、と出かかったがやめておく。こわいもの。
「それで、要件はなんです?」
一刻も早くここから離れたいため、すぐに要件を聞く。
「なに、皇の件で礼を言っておこうと思ってな」
「はぁ?」
別に礼を言われるほどの働きはしてないと思うのだが。
「僕は別に何もしてないですよ」
「そんなことはない。私たちでは出来ないことをお前は期待通り、いや、期待以上の成果を出して見せた」
期待通りって、やっぱり最初から俺を使うつもりだったのか。
「まぁ、先生の役に立てたのなら光栄です」
「かわいくないやつだな」
呆れながら笑う三島先生。なんで俺呆れられてるの?
理由を模索していると先生は真面目な顔になり頭を下げた。
「本当に感謝している。ありがとう」
「ちょ?!」
いきなりそんなことされても生徒は困るだけよ?先生に頭下げさせる生徒ってもう、字面だけでやばい。だからやめて!
「わかりましたから!十分わかりましたから!」
そう言うと先生は顔を上げる。
「先生がそこまでする必要なんてないでしょう」
「自分の生徒のことだ。礼を言うのは当たり前だろう?」
「だからって…」
きっとこれが大人なのだろう。高校生の俺では理解できない何かが先生の中にはあったのだろう。
「まぁ、お前も何か困ったことがあったら遠慮なく言え。特別に最優先で気にかけてやろう」
まじですか?
「じゃあ、追加の課題を無かったことにしてください」
「それは出来ない相談だ」
なぜだ、解せぬ。
先生との話を終え、職員室を出ると、廊下は綺麗なオレンジ色に染まっていた。もう、そんなに経っていたのかと時計を見ると時刻は十六時過ぎだった。
窓の外を見ると先輩方だろうか、生徒たちが部活動をしているのが見える。俺たちは来週部活動説明会があるため、まだ、部活に所属していない。
そんな俺がこの時間まで帰っていないのは怪しまれるかもしれない。さっさと帰ってゲームしよう。
急足で下駄箱に向かうと見慣れた後ろ姿が見えた。
「あれ?朝香?」
「…え?旭?なんで?」
「俺はさっきまで先生に呼び出されてたんだけど、朝香は?」
「私はちょっと忘れ物を取りにきたんだ」
「へぇ…」
「…」
「…」
会話はここで途切れる。
うわぁ、気まずいわぁ。誰か助けて!好きな人と二人きりなのになんでこんな空気なの?!
「と、とりあえず帰ろうぜ」
「…うん」
俺と朝香は靴を履き替えて帰路についた。
夕日が照らす帰り道。俺と朝香が二人並んで歩いている。この間、朝香がチラチラとこちらを伺うようにこちらを見てくるが、一切話しかけては来なかった。
「なぁ、朝香」
「?!…なに?」
「…お前、何かあったのか?」
「え?」
昼休みから違和感はあった。朝香が目を合わせてこないこと、明らかに俺を避けようとしていること、気のせいと言われればそれまでだが、朝香とは短くない付き合いだ、これが偶然だとは俺は思わない。
「…なにも…ない」
「嘘だな」
そう言うと朝香は俺を睨みつけてくる。
「なにもないって言ってるじゃない」
「何もないことないだろ?何年お前と幼馴染やってると思ってんだ」
そこまで言って朝香は俯いてしまう。
こんな朝香を見るのは初めてだ。
「…つ…こい」
「え?」
「しつこいのよ!」
「?!」
恨みがこもった目、急に出された大声、それが誰に向けられたものなのか、一瞬思考が停止してしまって分からなかった。
「異性としては見れないって言ったのに!振ったのに!なんでまだそんなに私に関わるのよ!」
朝香の口は止まらない。
「旭がまだ好き好き言ったりするから!クラスの子達にからかわれるのよ!」
こんなに苦しんでいる朝香を見るのは初めてだった。
「もう、鬱陶しいのよ!」
彼女の悩みを聞き出そうとしてこんな事になるなんて思わなかった。
「私には好きな人がいるんだから!」
初めてだった。
「もう私にかまわないで!」
朝香に、幼馴染にこんなにハッキリと拒絶されるなんて、初めてだった。
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