第10話 神からの試練

 翌日の朝、俺はいつも通り陽葵と朝香と登校していた。

 皇さんとは泣き止んだ後、解散となった。


 『また…明日』


 保健室を出ようとしたとき、皇さんはそう言った。

 これは今日も保健室にいるということなのだろうか。


 「―ひ…?」


 とりあえず昼休みにでも日比谷先生に皇さんについて聞いてみようか。


 「旭!」


 「ヴェアァァァァ?!」


 「な、なに?!」


 どうやらさっきから朝香が話しかけてきていたようだ。変な声が出てしまった。


 「だ、だいじょぶ?」


 「大丈夫だ、問題ない」


 陽葵にまで心配をされてしまった。

 まぁ、皇さんのことは今はいいだろう。


 「何か考え事?」


 「まぁ、おんな…あ」


 「…女?」


 「いや、おんなじクラスに友人ができるか不安だったんだよな!」


 あっぶね!「女の子について考えてた」とか変態発言じゃねぇか!


 「旭なら大丈夫でしょ。変態だけど」


 「おい、こんな純粋無垢な高校生なかなかいないぞ」


 「ハッ」


 「おいてめ」


 ひとまずこの場はごまかすことが出来たようだ。

 そのあとは他愛もない話をしながら学校に行くのだった。



 

 午前の最後の授業が終わり、昼休みになった。

 俺は日比谷先生に皇さんについて聞きに行くために保健室に向かおうとすると朝香と高橋がこちらに向かってきた。なんだろう。


 「どうした高橋。お前の席はないぞ」


 「酷ぇなお前」


 そんなやり取りを朝香は困ったように笑ってみている。かわいい。あなたの席はちゃんとありますよ。


 「お昼一緒に食べようかなって思ってきたんだけど」


 「お、いいじゃんいいじゃん!旭もいいでしょ?」


 「あぁ、もちろ――」


 言いかけて思い出した。俺は保健室に向かわなければならなかったのだ。

 しかし、朝香から誘ってきたのに断るなんて…!


 「ん?どうかしたか?」


 「…悪い、今日この後用事があってだな」


 「え…」


 うぅ、すまぬ朝香よ。高橋と楽しく食べててくれ。

 …やっぱ高橋はだめだ、許さん。


 「んじゃ、またあとで」

 

 「あ…」


 「…?どした?」


 朝香が何か言いたそうに俺を見ている。


 「…ううん、なんでもない」


 「?そっか」


 まぁ、話したいことがあるんなら話してくるだろう。もしかしたら内容がまとまってないかもしれないしな。

 俺は席を立ち、ボーナスタイムを無視して保健室に向かった。




 薬品の漂う教室。何度来てもこの匂いになれることはなさそうだ。


 「失礼します」


 そんな中に入っていく俺だが、入って一番最初に目についたのは、ある少女だった。


 「あ…こんにちわ」


 前髪で顔を隠した皇さん。その表情は見ることが出来ないが、心なしか声に怯えの感情がなくなっているように感じた。


 「こんにちは、皇さん。今日は昼からいるんだね」


 「いえ…入学式の後はここにいたよ…?」


 「え、そうなの?」


 「うん」


 三島先生は登校拒否って言ってたような…まぁいいか!


 「来てくれたんだね」


 「あー…まぁ約束したからね」


 とても先生に確認しに来ただけ、と言えるような雰囲気じゃない。


 「お昼は…もう食べたの?」


 「ん?あぁそういや忘れてたわ」


 本当は先生に聞いた後、購買で余ってるやつ適当に買って過ごそうかと思ってたからな。


 「あぁ悪い!昼まだだったから放課後でいいかな?」


 「あ…はい」


 「ごめんね!」


 戦線離脱。腹の準備も話す内容も決まってないのにこの環境にいるのは正直堪える。

 皇さんには申しわけないと思いつつ、保健室を後にそ、購買へと向かった。

 しかし、俺が行った時にはグミしか残っていなかった…。




 腹がすいたままの授業はとても長く感じたが、無事、放課後を迎えることが出来た。

 前回は後ろから出ようとして後ろ側の席の朝香に見つかったから、今回は前のほうから急いで出よう。こういう時に窓側の席って不便だよな。

 誰にも悟られないようにできるだけ平然を装って迅速に出口に向かう。

 廊下に出ると、やはり急いできたからか俺以外はあまり生徒がいない。あとはこのまま保健室に向かうだけだ。


 「旭!」


 「うぁい?!」


 びっくりした。結構大きい声で朝香に呼び止められた。

 振り返ると朝香はもう俺の後ろに来ていた。

 あれ?俺結構急いでここに来たんだけどな?

 心なしか朝香も急いできたのか息が少しだけ上がっているように見える。


 「ど、どうした?」


 「あ、その、今日は一緒に…帰れる…?」


 上目遣いでこちらを見上げる朝香。

 あなた、それ世の男子には一撃必殺よ?禁止技よ?

 だが俺はこの技を耐えて断らなければならない。なんて残酷な!

 返事が遅いからかだんだん不安そうな顔になっていく朝香。ぐぁぁぁぁぁ!


 「だめ…かな?」


 「あー悪い、今日もちょっと用事あってだな」


 「ぇ…」


 朝香からの帰りのお誘いを二回も断ってしまった。後でお菓子献上しにいこう。


 「すまん!じゃ、急いでるから!」


 「ぁ…」


 罪悪感でいっぱいになり急いでその場を離れた。神よ、なぜ私にこのような試練を…。

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