第8話 お誘い

 「落ち着いた?」


 「…う…はい」


 あれから数分。今日の授業は終わり、もうすぐ帰りのホームルームが始まるころだろう。

 今頃みんな新しい席で楽しくしゃべってるんだろうな~。


 「そろそろ時間だが…どうだ――」


 三島先生と日比谷先生が入ってくるとまだちょっと泣いている皇さんに目が行った。…嫌な予感。


 「お前…女の子泣かせたのか」


 「誤解を生みそうないい方はやめましょう。」


 まぁ、確かにこの状況だとそう捉えられるが。


 「ち、がうんです…佐倉…くんは、わたしを…はげまそうとして…」


 そういう皇さんに驚いたような顔をする先生方。え、なに?


 「佐倉弟、お前、放課後も来い」


 「ちょっと待て、先生だからって何でも許されると思わないでください!まず暇か確認すべきでしょう!?」


 「安心しろ。佐倉姉に用事はないことは確認済みだ」


 「うおい」


 あいつ、何勝手に人のこと暇人扱いしてんだ。俺はそんな姉に育てた覚えはないぞ。


 「それに、皇さんだって知らない男子とまた同じ空間なんて嫌でしょうに」


 「そ、そんなこと…ない…!」


 「え?」


 理解が追い付かない。なぜ?


 「だ、そうだ。よかったな」


 「あらぁ、罪な男の子ねぇ」


 こっちはこっちで言いたいほうだいだなオイ!

 煮え切らない態度でいると皇さんが首をこてんと傾げて不安そうな声で聞いてきた。


 「いや…かな…?」


 「いやじゃ…ないです」


 な、な、なにそれ?!かわいいんですけど!あなた多分普通にかわいいでしょ!ちょっと髪あげてみろや!


 「幸い、お前も皇を『悪い子だとは思わない』らしいからな」


 「あんたら最初から聞いてただろ!」


 ふざけんな!普通に黒歴史じゃねえか。今思えばスッゲー恥ずかしいこと言ってた気がする。今夜はよく眠れなそうだ。





 ホームルームが終わり、一気に騒がしくなる教室の中、一人だけコソコソと怪しい動きで教室から出ていこうとする人物がいる。俺だ。潜入ミッション開始だ!デデンデン♪

 出口まであと少し、ここまでくるのにわずか二秒。教室の後ろ側ので口に向かっているためあまり目立つことはない。フッ、さすが、優秀なエージェントは違うぜ!

 ここまで来たらあとは保健室までダッシュするだけ。いざ参らん!

 足に力を入れたとき、不意に肩をいかれる感覚がした。む、なにやつ!私の後ろに立つな!


 「な、なにやってるの?」


 「あー、これは」


 ミッション失敗。そういえば朝香さん、あなた廊下側の、席だったわね。

 なにかいい理由はないか、『今から女の子に会いに行くんだ!』などと言って誤解されたくないしな。というか、告白した女の子の前で別の女に会いに行くってやべぇな。


 「今日は一緒に帰ろう?旭と最近一緒じゃなかった気がするから…」


 そういうと朝香は後ろで手を組みモジモジし始めた。

 んん?!ガワイイィ!あなたは天使か?浄化されちまうじゃねぇか!浄化されちゃう俺は悪霊かなんかなのか?


 「あー悪いけど今からちょっと用事があるんだわ。先帰っててくれ」


 「そ、そっか…」


 うっ、罪悪感が…。


 「悪いな。埋め合わせはそのうちするからさ」


 「ううん、気にしないで」


 そう言う朝香を背に俺は保健室に向かうのだった。

 この言い方、なんかの物語の主人公みたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る