第6話 皇楓
教室を出て連れてこられたのは一般生徒には縁のない生徒指導室。もう一度言おう、生徒指導室である。
「あの先生、僕のような優等生がなぜここに?」
「どの口が優等生とか言ってるんだ」
「この口です」
「減らず口だな」
なんだろう、このテンポいい会話。すげー気持ちい。もしかして俺と先生の相性めっちゃいいんじゃないか?
「さて、本題に入ろうか」
「いや、僕本当にここにお世話になるようなことしてないんですが」
「この写真を見てくれ」
無視かい。俺のツッコミにいちいち反応してたら話が進まない、という考えなのだろうか。ならばとおとなしく渡された写真を見る。
「女の子?」
「そうだ」
唐突に渡された女の子の写真。え?どうしろと?
「その子に見覚えはないか?」
「いわれてみれば…」
肩より少し伸ばしたきれいな黒髪。前髪は目元まで伸ばしていて顔全体を確認することはできない。
「その子は皇楓という」
「はぁ…へ?はぁ?!」
「入学式には参加したがそれっきりだ。」
まだ見ぬ隣の席の女子、皇楓。なるほど、確かに入学式に参加していたなら見覚えはあるかもしれない。
「そういえば一度も見たことありませんね。体が弱い子なんですか?」
「いいや、いたって問題ない体をしている」
「じゃあ、家庭の事情で?」
「いいや、普通の家庭だし特別用事もない」
はて、ではなぜ皇さんは学校に来ていないのか。一般的に考えられる家庭の事情、体調不良は選択肢から消えた。後考えられるのは…。
「まさか事件に巻き込まれて?」
「そんなことになっているなら大騒ぎだろう」
確かに。
「…登校拒否?」
「正解」
どうやら正解することができたようだ。しかし、ここまで来たら気になってしまうのが人間の悪いところだろう。
「何か理由を聞いているんですか?」
「あぁ、中学時代の人間関係でなにかあったらしくてな」
「ほかには?」
「それ以外はしゃべってくれなかったよ」
どうしようもねぇな。てかなんで俺にこの話を聞かせたんだ?
そう考えたところで三島先生がニヤッと笑った。…嫌な予感がする。
「なるほど、貴重なお話ありがとうございました。じゃ、そういうことで――」
「待て待て待て!今の話を聞いてなぜ帰ろうとする!」
出口の扉を開けようとした手をがっちりホールドされる。いやあの、あなた顔は普通にかわいいんだから男の人にそういうのはあまり…もっとやってください。
「いや、冷静に考えてください。事情は分かりました。何とかしてあげたいです。でも先生方が手を尽くした以上、僕に何をしろっていうんですか」
「大人はだめでも同学年の子なら話してくれるかもしれないだろ?」
「それなら同学年の女子を説得に行かせるべきでしょう?なぜ僕なんです!?」
「なんとなくにきまってるだろう」
決まってねえよ、なんだよその理由。俺はメンタリストでもカウンセラーでもないわ。
「じゃあこうしよう」
またまた嫌な予感。
「彼女を説得する。これをお前に課す罰としよう」
「そりゃねえっすわ」
それはずるいだろ。断る理由がないじゃんか。
「まぁ冗談は置いといてだな…ちょっとばかし気にかけてやってくれないか?」
急に大人の雰囲気をだしてくる三島先生。この人もまじめに生徒のことを心配しているんだろう。
「…期待はしないでくださいね」
「すまないな」
誰にだって嫌なことや辛かったことはある。その苦しみを時間をかけて抑え込むのが人間だ。笑い話にすることが出来る人がいれば話したくないトラウマになる人もいるだろう。
皇さんに関してはおそらく後者のほうだろう。そんな彼女の心を赤の他人の俺がもう一度えぐりに行くのだ。まったくいい気はしない。
だが、頼まれて引き受けた以上、やれることはやってやる。
「そういえば入学式以来、学校に来てないならどこで話せばいいんすか?さすがに女子の家に上がり込むのはちょっと…」
「安心しろ。彼女なら保健室にいる」
「はぁ?」
いや、いるんかい。
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