第5話 新しい朝

 さぁみんな。素晴らしい朝が来たよ。すごいよく眠れた気がする。昨日はいろいろあって疲れたからかな?親睦会はどうなったかて?カラオケ行って飯食っただけで特に変わったことはなかったので割愛で。

 久しぶりにさわやかに目覚めることができた。これなら今日の授業は集中できる自信があるぞ。とりあえず制服に着替えて朝食の時間を優雅に過ごそう。そう思い時計を確認する。短い針は八をちょうどさしていた。なるほど、八時か。始業開始時刻は八時十分。…ん?


 「…まじか」


 そりゃぐっすりなわけだわ。いつもより一時間近く多く寝てたんだからな。

 俺の家から学校までは徒歩二十分。決して遠いわけではないが今からだと遅刻は確定だろう。


 「どうせ遅刻だしな」


 もう怒られることは確定している。だったら急がずにゆっくり登校しよう。

 入学してすぐ遅刻ってどんな不良だよ。



 「おはよう佐倉弟よ。いい朝だな」


 時刻は八時四十分。教室には笑顔の三島先生が立っていた。顔は笑っているが目は笑っていない。怖ぇぇぇ。


 「おはようございます。最初の授業って先生の授業だったんですね」


 「何か言うことは?」


 「すみませんでした」


 「後で職員室な」


 クラスのみんなが注目している中、死刑宣告に似たようなことが告げられた。あらやだ、みんなの前で恥ずかしいわ。


 「まったく…。まさか入学して二日で遅刻してくるやつがいるとは」


 「僕も驚きです」


 「黙れ」


 ふぇぇ、怖いよう。


 「それで、遅刻の理由は?困ってる老人でも助けていたのか?」


 「いえ、起きたら遅刻が確定していただけです」


 「だけです、じゃないだろう馬鹿者め」


 俺と先生の会話でクラスに笑いが巻き起こった。

 俺がみんなを笑顔にしたんだぜ。だから先生、許してくれない?


 「お前には一つ罰を受けてもらう」


 だめですか、そうですか。



 生徒指導からのお叱りを受け数時間後、昼食を終え午後の授業が始まろうとしている。今日はついてないな。何がついてないかって休み時間のたびに高橋が「よう、問題児。」とむかつく顔で煽ってくることだ。

 そんな高橋も昼休みには飽きたのか煽ってくることはなく普通の会話をし始めた。


 「結局、お前に課せられる罰ってなんなんだ?」


 「しらね、『後で報告する』っていってそのまま返されたからな」


 「面倒ごとの予感しかしねぇ」


 「やっぱそうだよなぁ」


 罰ってだけでも嫌なのに『後で』っていわれると生きた心地がしない。死刑執行日を確定せずに先延ばしされた気分だ。


 「自業自得じゃない?」


 「陽葵てめぇ」


 我関せずといった顔でそう言ってきたのは双子の姉の陽葵。


 「行く前に起こしてくれてもよかったじゃんか」


 「何回も起こしたよ」


 「はぁ?」


 どういうことだ?起こされた記憶がないんだが。


 「あんたあれ寝ぼけてたんだ。あたしの呼びかけで『今行く』って返事したの覚えてないでしょ?」


 なん、だと…?


 「そのあとも呼びかけたけどさすがに時間ないから、あたしは朝香と一緒に先いったのよ」


 「…全然覚えてねぇ」


 「んだよ、完全にお前が悪いんじゃん」


 くそう、高橋に何も反論できないなんて。この悔しさを何処かで発散することができないだろうか。そう考えていると教室の扉がガラガラと音を立てると同時に我らが三島先生が降臨する。


 「喜べお前ら、今から席替えだ。廊下側から順にくじ引いてけー」




 席替え。


 学生たちの大イベントの一つである。まぁ、やってることはただ席の順番を変えるだけなのだが席順の結果で学校生活のモチベーションが変わるので侮ってはいけない。気になるあの子の隣に行きたい、一番前の席は嫌だ、仲のいいこと近くなりたい、など願いは様々だ。

 廊下側の生徒から順に引いていき、だんだんと俺の番が近づいてくる。俺は…後ろのほうなら何でもいいや。あと、朝香を近くにください神様。お願いします何でもしますから。なんでもするとは言っていない。


 「次、佐倉弟、お前だ」


 「うぃーす」


 名前を呼ばれ教卓の上のくじ箱に手を突っ込む。中をかき回して一枚の運命のカード(紙切れ)を手繰り寄せ箱の中から引っ張り出す。


 「二十四番!どうだぁぁぁ!」


 書かれた番号を高らかに宣言し、席順の書かれた黒板を見る。このあと、驚きの結果に!?


 「窓際の一番前な。よかったな」


 先生の心無い声が俺に刺さった。



 「余ったこの時間は自由時間だ。新しい席での談笑もうるさくならない程度なら許可しよう」


 神よ、私たちに安息の時間を与えてくださるのですか。ありがたやありがたや。

 ちなみに俺の隣は皇楓すめらぎかえでさんという人らしい。今日は欠席のようだ。

 後ろは陽葵。なんでだよ。


 「なんでだよ」


 「俺が聞きたいわ」


 椅子越しに俺の背中を爪先で蹴ってくる陽葵。いや、ほんとになんでだよ。どうせなら朝香がよかったわ。ちなみに朝香は俺の真反対の廊下側の一番後ろの席。その隣に高橋。いいなぁ。高橋、俺はお前を信じてたのに。


 「佐倉弟、お前はちょっとこい」


 「WHAT?」


 「いいからこい」


 なぜか先生についてくるように言われる俺。仕方なくついていくことにする。

 おい高橋、てめぇ笑ってんじゃねえぞ。後で覚えてろよ。


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