第3話 イケメン

 入学式後ということで、最初は授業説明だけで半日が終わり、現在は昼休み。せっかくだから購買に行ってみようとのことで高橋からお誘いがあった。俺的には菓子パンが売っててくれればそれでいい。あれ考えた人天才だと思うわ。ごはんとして食べてよし、おやつとして食べてよしの優れもの。俺は菓子パンさえあればこの世界を生きていける。…嘘です、菓子パンだけだと飽きてしまうので許してください。


 「そういえば、伊織さんに彼氏っているのか?」


 「俺」


 「そういうのいいから」


 な、んだと…?

 「いないと思うぞ。今までそんな素振り観測していない」


 「観測って…まぁいいや。じゃあ俺、伊織さん狙ってみようかな」


 「は?」


 「露骨にいやそうな反応するなよ」


 「娘はやらん」


 「父親か」


 こいつにだけは絶対にやらん。こいつと朝香が付き合うだと…?ゔぉぇぇぇ。想像しただけで俺のメンタルが…。


 「でも俺が狙わなくても、もうすでに伊織さんいいなって思ってる男子が結構いるぜ」


 「は?マジで?」


 「だってあの子めちゃくちゃかわいいじゃん」


 「だろ?」


 「なんでお前が得意げなんだよ」


 高橋、お前見る目があるじゃないか。その目に免じて朝香のファンクラブを名乗るくらいなら許してやる。


 「お、購買あれっぽいぞ」


 「ぬ」


 高橋と雑談を交わしていると購買なるものが見えてきた。

 「…まじかよ」


 「おうふ…」


 俺たちが見たのは購買である。だが、並んでる数が尋常じゃない。おかしい。あそこは本当に購買なのか?


 「場所、間違ってないよな?」


 「あぁ、だって上のほうに看板が…」


 「おうふ」


 「ありゃ無理だ。今日は戻ろうぜ」


 「飯はどうするんだ?」


 「我慢するしかないだろ」


 「だよなぁ…」


 そりゃそうだわ。もういい。教室戻ってさっさと寝よう。無駄なエネルギーを使わないように、そして腹がならないように腹に集中するんだっ!いや、集中したら余計にエネルギーを使うのでは?


 教室のドアを開けると、音に気付いたのかちらほらとこちらを見て、ただのクラスメイトだと分かったら興味がなくなったのか昼食や話を再開した。

 俺は話す気力もないので最短ルートで自分の席に座り、腕に顔をうずめて睡眠の体制をとる。そう、俺は熊だ。今から冬眠するんだ。残りの授業が終わったら起きるからそれまでかまわないでくれ。


 「あれ?お前ら購買に飯買いに行ったんじゃないの?」


 …どうやらおとなしく冬眠すらさせてくれないらしい。声のしたほうを見上げてみる。そこには男の俺でも『あ、こいつかっこいいわ』と思ってしまうような、俗にいうイケメンがいた。


 「宗教勧誘はお断りしています」


 「お前は俺を何だと思ってんだよ」


 「え、違うの?」


 「違うな。そもそも学生が宗教勧誘するわけがないだろ」


 「いるかもしれないだろ?そういうやつも」


 「知らないよ」


 まぁ、学生で宗教勧誘はないか。ないよね?


 「んで、あんた誰?」


 「お前なぁ、一応クラスメイトだぞ?…まぁいい、九十九一つくもはじめ。お前の左斜め後ろの席だ」


 そういえばそんなやついたな。昼飯買えなかったことがショックで忘れてたわ。


 「それで、お前ら購買に行ったんじゃなかったのか?」


 「いったぞ。コンサート会場にいったみたいだったぞ」


 「どういうこと…あ、なるほどな」


 お、どうやらこのイケメンは察してくれたようだな。なかなかやるじゃないか。


 「ということは、旭、お前は昼飯を買うことができなかったわけだ」


 にやにやと面白いものを見るような目で俺を見る九十九。こいつ、他人事だとおもって煽ってきやがる。


 「え?!旭お昼ご飯ないの?!」


 「らしいよ伊織」


 「なに?お前らもう仲良くなったの?」


 「旭が来るまでお話ししてたのよ」


 なるほどな。確かに席が近いから話すこともあるか。だがそれ以上朝香と仲良くなってみろ。俺の中のお前が木端みじんになるぞ。

 とか考えていると九十九は何やらバッグをごそごそとあさりだし、そこから何かを俺に投げつけてきた。


 「俺、今日多めに持ってきてるから一個やるよ」


 「はぁ?」


 「『はぁ?』じゃないでしょ!お礼言いなさいよ!」


 と朝香から頭をひっぱたかれる。


 「ありがとうございます」 


 「気にすんな」


 こ、こいつ、性格までイケメンなのか?そんなに優しくされると惚れちゃうよ?…自分で言ってて気持ち悪くなってきた。


 「高橋と分けるんだな」


 「断る」


 「おい」


 こいつはもう俺のもんだ。

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