第2話 好き
朝香に怒られながらも無事に教室に入ることができた今日この頃。教室にはすでにほかの生徒たちがグループを作って談笑していた。入り口付近にいた生徒がこちらに気づいた瞬間に面白いものを見つけたような目で話しかけてきた。
「おはよう三人とも!」
三人とも。そう、俺たちはクラスまで一緒だったのだ。はっ?これが運命?
「おはよう佐藤!」
「いや、俺高橋だから…」
そう言って声をかけてきたのは佐藤、ではなく高橋。俺の左隣の席の住民である。ちなみに俺は廊下側から二列目の一番前の席。後ろに陽葵、右斜め後ろに朝香、となぜこんなに固まっているのかわからないが俺を一番前の席にしたやつは許さん。今ならグー三発でゆるしてやる。
「…また変なこと考えてたでしょ?」
「高橋、今ならグー三発でゆるしてやる」
「何を?!」
「俺を一番前の席にしやがって…!」
「いや、高橋君のせいじゃないでしょ」
「普通に考えて先生でしょ」
なに?そうか、冷静に考えれば先生が決めてるのか。いやぁ、ありがとうございます。先生の授業を一番前で聞けるなんて光栄です!ん?グー三発?誰だそんなこと言ったやつ。出てこい、今ならグー三発で許してやる。
「というか、ほんとに三人一緒なんだな。旭と伊織に関してはもはや付き合ってるんじゃないか?」
「フハハ、よくわかったな。その通りだ」
「ちょっと?!バカなこと言わないでよ!」
「そうだよ!朝香はあたしの彼女なんだから!」
「陽葵まで!」
「ふざけんな!何勝手に自分のものにしようとしてんだ!」
「姉に向かってその態度は許せないわね」
姉弟で朝香の取り合いになることは別に珍しいことではない。予言して見せよう。この言い合いはすぐに収まると。
「やめて」
「「すみませんでした」」
ほらね?
「佐倉さんはともかく、旭はよく恥ずかしげもなくそんなこと言えるよな」
「だってすきなんだもん」
「…っ」
「もんって…」
俺は朝香のことが好きだ。もちろん異性として。なぜ恥ずかしげもなくこんなことを言えるのかって?
「一回振られてるからな。失うものは何もない」
「今、クラスでのお前の立場が失われかけてるぞ。というか振られてたんかい」
中学時代、俺は朝香に一度振られている。理由は『幼馴染だから異性として見たことがない』らしい。ぐすん。
「…ばか」
そんな?!俺はただ自分に正直になっているだけなのに?!
「おーい、いつまで騒いでいる。さっさと席につけ」
しばらく話していると、かわいらしい声とは裏腹に厳しい声をかける女性が教室に入ってきた。
「今日からこのクラスの担任になる
先生の言葉で、新たな生活が幕を開ける。
そして、俺たちの関係は大きく変わることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます