ここが好い家なう

紅灯空呼

好居の建築

 海馬とど好居いい家乗飛いえのひは弁天島で生まれ育った。北海道稚内市の宗谷湾に浮かぶ島で、宗谷岬の北西にある。

 建築家を目指す好居いいは中学を卒業後、牛乳配達をして貯めたお金を持って実家をでた。肌身1つで沖縄県那覇市にやってきた。

 4年間みっちり建築を学び家を建てた。だがしかし、台風が沖縄本島を直撃して、家は飛んだ。

 好居いいは地元の人間から話を聞いて、台風に強い家を建てたいと思った。

 そして建てた2つ目の家は、台風がきても飛ばなかった。だがしかし、大雨で床下浸水して害虫にもやられて腐った。

 好居いいは台風だけでなく、浸水にも虫にも強い家を建てたいと思った。

 借金して建てた3つ目の家は、大雨の時に空中に浮かんで浸水しなくなったし、虫がきたら家が煙をだして追い払うので、負けなくなった。

 好居いいはすこぶる満足した。

 ある日、夢の中で仙人の爺さんが現れて「好居いいよ、今のままでいのか」と訊いてきたので、「いよ」と返答した。

 後日、家は借金のかたとして差し押さえられた。

 好居いいは後悔した。仙人の爺さんの云うことをマジメに聞いておくべきだったと思った。

 好居いいはハブ退治にでかけた。ハブに噛まれたが、痛みに耐えてよくがんばった。それで貯めたお金で、4つ目の家を建てた。最高傑作だと思った。

 1日後、風速95キロメートルと云う巨大台風が沖縄本島に上陸した。

 好居いいの家は飛んだ。だがしかし、それが狙いだった。家は九州の長崎県長崎市に降りた。

 2日後、震度8の地震があって、家は倒れた。

 好居いいは長崎ちゃんぽん店で働いた。それで貯めたお金で、5つ目の家を建てた。今度こそ最高傑作だと思った。

 3日後、再び震度8の地震があった。

 好居いいの家は飛んだ。だがしかし、それは狙いだった。家は山口県下関市に降りた。

 4日後、風速115キロメートルと云う超巨大台風が山口県に上陸した。

 好居いいの家は飛んだ。それが狙いだった。家は高知県室戸市に降りた。

 5日後、高さ25メートルの津波がきた。

 好居いいの家は飛んだ。それも狙いだった。家は岐阜県各務原市に降りた。

 6日後、40人の飛騨忍者が攻めてきた。

 好居いいの家は飛んだ。それも狙いだった。家は東京都世田谷区に降りた。

 7日後、2人の役人が攻めてきた。

 好居いいの家は飛んだ。もちろん狙いだった。家は秋田県秋田市に降りた。

 8日後、イナゴの大群が攻めてきた。

 好居いいの家は飛んだ。家は青森県八戸市に降りた。

 9日後、積雪25メートルの大雪があった。

 好居いいの家は飛んだ。家は北海道の新千歳空港に降りた。

 10秒後、ジェット機が突進してきた。

 好居いいの家は飛んだ。家は弁天島の実家近くに降りた。

 11秒後、好居いいの母がでてきた。


「おお家乗飛いえのひ、お前どこへ行ってた」

「ニッポン縦断に行ってた」

「そうか、お帰り」

「ただいま」


 好居いいは実家の中に入る。そしてSNS上に送信する。


 |4年半ぶりで故郷に帰った|

 |やっぱ、ここがい家なう|


 2121年11月18日の呟きだ。(ハッシュタグ:いい家の日)

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