第1話 ─7─

 大声を出して扉を開け放ったのは、見た目が17~18くらいの女性。

 柔らかそうな金色の髪に、ゆるやかなスカートを翻しながら大股で入ってくる。


「マイ姉ー!ちゃんといるのね。今日こそ返してもらうからね!」

「帰れっ!」


 笑顔で近づいてくる相手に、マイアが怒鳴り返す。

 驚いた顔で、女性は立ち止まった。


「というか、どうして急に来たのだアルキュオネ!わたしは聞いておらんぞ!」

「えーっ!ちゃんと連絡したのにー!」


 アルキュオネは不満そうに口をとがらせる。

 なおもなにかを言おうとするマイアの服の裾を、メルが引っ張った。


「あ、あの……」

「なんだメル?」

「昨日、マイアさまがいらっしゃらない間にアルキュオネさまから伝言があって……」

「なに?」

「明日……というか、もう今日ですけど……こちらにいらっしゃると」

「な、なぜそれを先に言わんのだ!」


 メルが「すみません」とぺこぺこ頭を下げる。

 アルキュオネはむすーっとした顔でマイアをにらむ。


「もー!マイ姉、返せないなら約束守ってもらうからね!」

「話が違うだろ!もう少し待てと言ったはずだ!」

「もう待てませんー!」


 お互いににらみ合いながら一歩も譲る気配のない会話を続けるマイアとメローペー。

 話しの流れが見えず、清太郎はそっとメルに尋ねた。


「あの……こちらのおかたは?」

「アルキュオネさま……です。大地と慈愛の女神さまです。マイアさまの妹君で、十二柱の女神さまの四女にあたります……」


 戸惑いながら、メルは答えてくれた。


「あの……女神さまをご存じないことがバレるととてもマズイので……」

「あ……」


 この世界の人間からすれば、世界を創造したという女神は知っていて当然なのだろう。

 危なかった。直接本人に聞かなくてよかった……と清太郎はそっと冷や汗をぬぐった。


「それで……さっきから返すだとか約束だとか……なんのお話なんですか?」

「えっと……」


 メルが言いよどむ。

 その向こうで、マイアとアルキュオネはさらにヒートアップしていた。


「もうとっくに返済の期限すぎてるんだよ?それをマイ姉が頼む!っていうからずーっと伸ばしてあげてたけど、もう限界でーす!」

「借金を返すための準備がいると言っているだろう!いくら騒いでも、神殿は渡さん!」


 ……借金?

 またしても初耳な不穏ワードに、清太郎は思わずメルを見る。

 とても言いづらそうに、メルはためらいがちに話しはじめた。


「その、マイアさまが……信者が増えないのは派手な動画を作れないからで、派手な動画を作るにはお金が必要だから、女神グッズ?というものを売って稼ぐと言い出して……」

「そこまでは、うかがったお話のとおりですね」

「……で、そのグッズというものを作るためのお金がないのでアルキュオネさまにお金を借りたんです」

「おーう……」


 思わず間抜けな声を出してしまった。

 清太郎の脳内で赤ランプが点灯している。


(返済が滞っている借金て……経営状況としてかなりマズいだろ……)


 経営再建までの難易度をイージーモードからハードモードに変更。まず借金をどうにかしなければならない。

 その手段は?なにか現金化できるものでもあるだろうか。不動産や商品在庫はどの程度持っているのだろう。雇用している人員の整理も必要かもしれない。


(といっても普通の会社じゃないからな……どんな手段がとれるか……)


 清太郎が脳内をフル回転させている横で、マイアはなぜか腕を組んで、得意げにアルキュオネのほうを向いている。


「だがなアルキュオネよ。わたしもなにもせずただ時を過ごしていたわけではないのだ」

「…………?」


 まるでなにか秘策でもあるかのようなその態度に、アルキュオネは不審そうな表情になる。

 マイアの自信たっぷりな態度に、メルは不安そうに声をかけた。


「で、でも……どうするおつもりなのですか?アルキュオネさまからの借金は金貨1000万枚でしたよね?今手元にあるのは、今月分の生活費金貨10枚だけですよ」


 それを聞きながら、清太郎は頭を抱える。

 金貨という単位がどの程度の価値を持つのかはわからないが、手持ちの資金に対してあまりにも借金の額が大きすぎる。


「安心せい、メルよ。そのために助っ人を連れてきたといっただろう」

「助っ人……」

「そうだ。さあコンサルタント清太郎よ!お前の出番だ!」


 突然名前を呼ばれ、フル回転していた清太郎の脳内が停止する。

 ……出番?なんの?

 しかしマイアは芝居がかった大げさな動作で振り向き、清太郎に手を差し伸べる。


「さあ清太郎よ!今こそ『けいえいせんりゃく』のスキルで借金をなくしてくれ!」

「…………はい?」



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