第1話 ─3─
「あの……ひとついいですかね?」
「……なんだ?」
マイアの反応をうかがいながら、清太郎は慎重に口を開いた。
「ここは経営戦略をコンサルティングする会社なんです。必要な情報を集め分析し、実現可能なプランを立てて売り上げにつなげる──ようするに、会社にとっての『軍師』や『参謀』になる、というのが仕事なんです」
「う……うん?」
今一つよくわかっていない、といった顔のマイアを見て、清太郎は咳ばらいをして言いなおした。
「つまりですね……コンサルタントというのは会社を相手にする仕事なんですよ。女神さまのために信者を集めたり、威厳を守ったりというのは業務外なんです」
「…………」
驚いた顔のまま固まるマイア。
「まして……ランキング?チャンネル?動画の閲覧数を稼いだり登録者を増やしたり、っていうのは専門外です。動画配信者向けの業者を探された方が早いのでは?」
「ま、まってくれ!」
清太郎の話をさえぎって、マイアが口をはさむ。
「違うのだ……頼みたいのは、そのことではない」
「……と申しますと?」
「その……信者が減った結果……お布施も減ってしまい、なんというか……お金が……なくなってしまって……」
ぼそぼそとしゃべりながらだんだん小さくなる声。恥ずかしそうにうつむくマイア。
いやそこ今更恥ずかしがるか?と思いながら、清太郎はため息をつく。
「融資のご相談でしたらうちではなく銀行へどうぞ」
「ち、ちがう!」
慌てて顔を上げるマイア。しかし、すぐに恥ずかしそうに顔をそらす。
そしてものすごく言いづらそうにもじもじしながら、口を開いた。
「た、ただ安穏としていたわけではない!わたしとて世界を創造した女神のひとり。信者を取り戻すためにさまざまな手を打った!だが……」
「金策がうまくいかなかった、ということですか」
なるほど、商売の話か。
経営に関する相談であるのなら、たしかにコンサルタントと無関係というわけではない。
……経営形態が想像の斜め上にぶっ飛んでいるという点をのぞけば、だが。
「ちなみに、どのような方法を?」
「その……女神マイアグッズを……」
「はい?」
くっ、と下を向いてしまうマイア。
「ち、違うぞ?決して浮ついた気持ちで作ったわけではなく……その、もうちょっと女神を身近に感じて欲しくてだな……!」
「いやなにも言ってないですが」
「……っ!」
マイアは顔を真っ赤にしたまま、うつむいて黙ってしまった。
あれだけ媚びだの嘆かわしいだの言っておいて、似たようなことをやってたら確かに恥ずかしい。
……というか、この子あんまり頭の出来がよろしくない方なのでは?
「……ちなみに、どのようなグッズを?」
「え……っと、アクリルキーホルダーとクリアファイル、イラスト入りタオルに大判ポスターと抱き枕カバーに……」
「オタグッズかよ!」
もっと宗教的な商品を想像していた清太郎は、思わず声を大きくしてツッコんでしまった。
「オタグッズかよ!秋葉原にでも置くつもりかよ!」
「だ……っ!だって、女神さまグッズだったらこういうのが定番だって……知恵袋で……」
「自分のグッズ作るのにネットで質問したうえに回答してもらっちゃってるのかよ……」
軽いめまいを覚えて、頭を抱える清太郎。
どこの世界に自分で自分のオタグッズ作る女神がいるんだよ……
宗教というよりもアイドルかそのあたりを目指した方がいい気がする。
「だって……!」
少し涙目になりながら、マイアが言う。
「今まで商売とか……お金を稼ぐことなんてしたことなかったし……!わたし……光と秩序の女神だから……っ!」
言いながら、マイアの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
思わずドキッとして、清太郎は静かにマイアの顔を見た。
「ランキング最下位だからって……信者がいないからって……みんながわたしをバカにする……長女なのに……」
「…………」
「お金がないから……派手なイベントできなくて、人を集められないから……だからグッズ売ってお金集めようと思って……それで……」
ぐしぐしと乱暴に涙をぬぐって、マイアが叫ぶ。
「だからわたしは、ここに……異世界に来たのだ!この危機を乗り越えて、わたしを救ってくれる者を探すために!」
きつく結んだ口元。真剣そのものの表情。
……話の内容はともかく、本気で切羽詰まっていることはわかる。
「いろいろと調べた結果、商売をするには『けいえいせんりゃく』のスキルが必要だとわかった。そして、そのスキルを持っているのはコンサルタントだということも」
おもむろにマイアは立ち上がり、テーブルに手をついて体を乗り出した。
急に顔を寄せられて、清太郎は固まってしまう。
「負けたくない!バカにされたまま終わりたくない!女神の威信をヤツらに思い出させてやりたい!わたしはオワコンじゃないって、証明してやりたい!……頼むコンサルタント!どうか一緒にわたしの世界へ来て……力を貸してくれ!」
「…………」
清太郎は、黙ったままマイアの顔をじっと見つめていた。
この自称女神が、なぜコンサルタント会社にやってきたのかは理解できた。最初に「けいえいせんりゃく」がどうとか言っていたのも、自分の商売をどうにかしたかったからなのだろう。
(さて……どうしたもんかな……)
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