191.ボーダーレス公表

「そうかお礼か。国の代表から礼を言われるなんて、流石はボーダーレスだね」


 ブルース達がボーダーレスだという事は秘密にしているはずだが……?

 アンソニー陛下へいかはどうやってその事実にたどり着いたのだろうか。


「あらお気づきになりましたか?」


 ボーダーレスだと言われても「今日は暖かいですね」と言われた時と同程度の反応を返すオレンジーナ。

 ブルースがボーダーレスだと知った時の反応とは大違いだ。


「……焦らないのだな」


「ええ、もう焦る必要もありませんから」


「それはつまり、ボーダーレスであることを喧伝けんでんしても構わない、という事か?」


「自ら言いふらす事はしませんが、それを止める事もしません」


 アンソニー陛下へいかは上体を起こして背もたれに体を預ける。

 そして右手中指で机を数回たたくとオレンジーナを睨みつけ、すぐに目をつむって首を横に振って一呼吸し、自分以外の親書をオレンジーナ側に移動させる。


「ボーダーレスになると勇者以上の力を発揮すると言われているが、一国の軍隊を崩壊させた実力は本当という訳か」


「そうですね、夕食を賭けて殲滅速度を競いました」


 そう言われ、アンソニー陛下へいかはこれ以上の追及をやめた。

 しかしせめて多少の恩恵にはあずかりたいようだ。


「ボーダーレス誕生のパーティーを開きたいのだが、全員が集まる事は可能か?」


「すぐには無理ですが、数日後ならば問題は無いと思います」


「なら予定が決まったら改めて連絡しよう」


 軽く会釈をしてオレンジーナは部屋を出て行く。

 扉が閉まるのを確認すると、アンソニー陛下へいかは疲れたように両腕を机に乗せてため息をつく。


「隠す必要が無いという事は、すでに我が軍では手に負えない存在になったという事か……六人揃えば国軍以上、一人でも部隊単位の戦闘力という事か?」


 正確な情報があるわけではないので、アンソニー陛下へいかの情報収集能力ではこれが限界なのだろう。

 むしろ現実を知っても理解できない可能性が高い。

 それほど離れた存在になってしまったのだ。


 数日後、アンソニー陛下へいかの命令により大急ぎでパーティーが開催された。

 ひとまずは急いでボーダーレスが誕生した事を発表するためなので、国内の貴族でも間に合わず来れない者がかなりの数いる様だ。


 しかしパーティーは数週間続けるらしく、その間に来れればOKと言う事だろう。

 もちろん国内向けとはいえ国外にもこの情報が流れるので、必然的にあちこちの国からも参加者が現れる事になるが。


 昼過ぎから開催されたパーティーにはブルース達六人が揃って参加する。

 城とは別の大きな離宮に人が集まり、ブルース達も正装で離宮に現れた。


「へ~、ここには始めて来るねブルー君!」


「そうだねローザ。普段はお城にばかり行ってたけど、こんな所にパーティーが出来る場所があったんだね」


 ブルースはタキシードとは言わないが、青みがかったスーツを着用している。

 ローザは薄い赤色で体に密着したドレスを着用している……のだが、ブルースの左側にピタリとくっついて腕を組んでいる。


 その後ろにはオレンジーナが純白で丈の長い体に密着した聖女セイントのドレスを、エメラルダは緑色で肩を出しスカートがフワリとしたネックドレスだ。

 

 更に後ろにシアンは水色のフリルが沢山付いたドレス、シルバーは黒く丈の長い落ち着いたドレスを着ている。

 それにしてもシアンとシルバーの身長差が激しい。


 パーティー会場に沢山の人が集まり、お披露目はまだかまだかと盛り上がる中、アンソニー陛下へいかが登場した。

 アンソニー陛下へいかの後ろにはブルース達六人が続いている。


 すでに六人は何度か貴族のパーティーに参加しているため、ブルース達の事を知っている貴族が多い様だ。


「諸君! 我がゴールドバーク国王に六人ものボーダーレスが誕生した! これによりゴールドバーグ王国は更なる繁栄を遂げるだろう! 六人のたゆまぬ努力を称え、皆も国の為に尽くして欲しい!」


 アンソニー陛下へいかの言葉に歓声が上がり、ブルース達は一礼するとパーティーに参加をする。

 てっきりボーダーレスだからとチヤホヤされると思ったが、実際にチヤホヤされているのはオレンジーナとエメラルダだけだった。


 オレンジーナは聖女セイントとしての信頼があり、エメラルダは成人前とはいえ軍の手伝いという実績がある。

 ブルースとローザはデモンスレイヤーとしての実績はあるが、あくまでも平民の中での話だ。

 シアンとシルバーに関しては一部の軍人には人気があるが、貴族からは大きな信頼がない。


 そう、怖いのだ。

 

 ボーダーレスという夢物語だと思っていた予言が目の前にいる。

 しかも小国とはいえ軍を壊滅させる力を持っている。

 知らなければ以前と変わらず接することができただろうが、知ってしまっては元通りにはいかない。


 人気のあるオレンジーナとエメラルダをよそに、ブルース、ローザ、シアン、シルバーの四人は行き場がなく、会場の壁沿いに集まっていた。


「それはそうよね~、単に強いんじゃなくってボーダーレスだもんねー、怖いよね」


「ローザは怖くなんて無いよ! とっても可愛いよ!」


「そ、そう? えへへ、ありがとうブルー君」


 最近この二人の仲が妙に良い気がする。

 オレンジーナとエメラルダはブルース達を気にしているが、中々貴族の壁から抜け出せないでいる。

 ブルース達は気にするなとばかりに手を振るが、ある人物の登場でブルース達の表情が強張った。


 ブラックリン・フォン・ワイズマン子爵とクリムゾナだ。

 ブルースの父親と長男の登場だ。

 

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