190.騒動が起きなければ平和。起きなければ

「それでいつ出発するんだ?」


 ビーチにいそうなアロハ系の格好をした男が燕尾服の男に尋ねる。

 いつの間にかビジネスチェアーからビーチベンチに変わっており、トロピカルジュースを手にして飲んでいる。


「もう向かっている」


 燕尾服のお堅そうな男はワイングラスを手にし、革の豪華そうな椅子に座り答える。

 どちらの飲み物も先ほどまで無かったものだが、どうやら光が飲み物を形作っている様だ。

 光による映像だけなのか、それとも。


「なんだもう向かってんのか? 相変らずせっかちだな」


「お前も乗っているんだぞ?」


「え? ……あ本当だ、お前なぁ、そういう事は先に言えよ」


「他にも数名呼んでいるから、向こうに着く前に打ち合わせをするぞ」


「へいへい、えーっと? 俺とお前、後はディーチと三〇四号も来るのか。三〇四は苦手なんだぜ? 俺」


 アロハな男はトロピカルジュースを飲みながら窓の外を見ているだけなのに、何かを確認している様だ。

 そんな男を見ながら燕尾服の男はワイングラスを会議用の長テーブルに置く。


「上手くやれ」


「上手くやりますよ~? 仕事だからな」


「頼むぞ。では船内で会おう」


 そう言うと燕尾服の男はライトのスイッチを切った様に一瞬で姿を消した。

 居なくなったのを確認すると、アロハな軽そうな男の姿も消える。

 そして会議室風の部屋は一瞬で真っ白で何もない部屋に戻った。


 その頃ブルース達はそれぞれの行動をとっていた。

 ブルースとローザはモンスター討伐デモンスレイヤーの仕事を、シアンは家の中で薬品の調合を、エメラルダは手伝いをしている部隊の応援に、オレンジーナは王城に呼ばれ、シルバーはブラウンの中でデータ整理をしている。


「ブルー君そっちに行ったよ!」


「まかせて!」


 ブルースの腰の高さまである草が生えている草原で、ブルースとローザはグラスホッパーの討伐をしていた。

 一応はバッタなのだが、大きさが尋常ではない。

 体長は三メートルを超え、強靭なアゴは岩をも砕き、ジャンプで数十メートルを跳ね、羽根で空を自由に飛べる。


 そんなグラスホッパーが三匹現れたというので、周辺の村人は全員避難している。

 ブルースはパワードスーツをまとうでもなく、私服のような軽装で槍と盾だけを持っていた。


「フッ!」


 一匹のグラスホッパーが着地する所を狙い槍を突き出す。

 槍はグラスホッパーの胴体に命中し体内に深く食い込むと……グラスホッパーの胴体に大きな穴が開き、はじけるように胴体が切り離されてしまった。


「うわっ、あれ? なんで??」


「ブルー君手加減手加減! グラスホッパーは普通のモンスターなんだからね!」


 そう、今まで戦っていた相手が相手なので、本来は恐ろしいモンスターであってもブルース達にはただの雑魚になってしまったのだ。

 そういうローザももう一匹のグラスホッパーに大剣を振るうのだが、ただの横薙ぎのつもりがグラスホッパーを真っ二つにし、扇状に草刈りまで完了してしまった。


「……ん?」


「ローザ、手加減手加減」


 残りの一匹は勝てないと思ったのか逃げ出した。

 ブルースもローザも自分が倒したグラスホッパーの死体を見ながら力加減を考えているが、ふとローザが剣を背中にしまうと左手に大きな弓が姿を現した。


「よっと」


 矢をつがえる形をとると矢が魔法の様に姿を現し、逃げていくグラスホッパーに向けて放たれる。

 矢が命中すると爆発し、やはりグラスホッパーの体は真っ二つになっていた。

 ブルースが爆発で焦げた胴体を見てつぶやく。


「リハビリが必要だね」


「そ、そだね。今から思うと今までの敵って強かったって事なのよね?」


 二人で顔を見合わせ、少し困った様に苦笑いをする。

 とりあえずは討伐部位の触角を切り取り、離れた場所に置いてある魔動力機関装甲輸送車ファランクスの側まで歩いて行く。


 ここに来るのに数時間かかっているため、少し日が暮れた今日はここで一泊するようだ。

 魔動力機関装甲輸送車ファランクスの周囲は草の背も低いため、車外で料理をしてのんびりし、そろそろ睡眠の時間となる。


 ここで問題が発生した。

 ブルースとローザが二人きりで車内で寝るのは初めての事なのだ。

 貨物室にある左右のベンチシートを簡易ベッドにして毛布をかぶっているが、互いに背を向けているも緊張して眠れない。


((どうしよう、告白したんだからいい……んだよね?))


 ブルースとローザが緊張で眠れない夜を過ごす少し前、オレンジーナは新国王のアンソニー陛下へいかに呼ばれて執務室へと来ていた。


「お呼びでしょうか陛下へいか


「ああ、よく来てくれた。早速で悪いんだけど、アルマルカ帝国とベラヤ=バイマーク連合議会から親書が来ているんだ。君達、一体何をしてきたんだい?」


 アンソニー陛下へいかが机の上に十数枚の洋封筒を並べる。

 洋封筒の色は白と淡い赤色の二種類あり、白がベラヤ=バイマーク連合議会から、淡い赤がアルマルカ帝国からのようだ。


「この親書、どうして俺以外の人にも送られてくるんだろうねぇ?」


 親書の宛先にはブルース、ローザ、シアン、オレンジーナ、エメラルダ、シルバー、そしてアンソニー国王陛下の名前が書かれている。

 各国からそれぞれに来ているので、計十四通あるようだ。

 そう、親書は本来国家元首間で送られる物なのだが、アンソニー陛下へいかには申し訳程度に送られているのだ。


「さぁ? 向こうでは色々と手助けをしましたから、そのお礼ではありませんか?」


 シラをきるオレンジーナだが、アンソニー陛下へいかは少し目を細めて机に肘をつき、指を組んでアゴを置く。


「そうかお礼か。国の代表から礼を言われるなんて、流石はボーダーレスだね」


 ブルース達がボーダーレスだという事は秘密にしているはずだが……?

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