192.意地と離別

 ブルースの父親ブラックリン・フォン・ワイズマン子爵と長男のクリムゾナが、ボーダーレス公表のパーティー会場に現れた。

 ブラックリンは貴族らしい黒いスーツの肩から下に向けて金色の刺繍がされており、袖口にも同じような刺繍が施されている。

 左胸には六つの勲章が付けられている。


 長男クリムゾナは軍人のため軍服だが帯剣はせず、儀礼用の濃く赤い服装で肩から胸にかけて金色の飾り緒かざりおを数本たらしている。

 真っ赤な短い髪を逆立てたガタイのいい青年だ。

 基本的には愛嬌のある顔立ちで、ブルースがいない時ならとても好感の持てる。


 そんな二人をブルースは離れたところで確認して動きを止めた。


「ち、父上……クリム兄さん……」


 ローザ達はブルースと親たちの関係を知っているので、あえてブラックリンとクリムゾナを気にしないようにしている。

 ローザはブルースと腕を組み、ワイングラスをブルースの目の前に差し出して飲むように促す。


 目の前に現れたワイングラスを受け取り、ブルースは少し深呼吸をして一気に飲み干した。


「おっ、いい飲みっぷりだねブルー君!」


 シルバーとシアンも気を使って話かける。


「マスター、料理をどうぞ」


「ブルース、あのお菓子を取って欲しいんだな、ダナ」


 そんなブルース達に気が付く事も無く、ブラックリンとクリムゾナはオレンジーナとエメラルダを囲む輪に参加する。

 

「オレンジーナ、エメラルダ、久しぶりだな」


「お父様! もう領地は大丈夫なのですか?」


「クリム兄さんも、無理をしたのではありませんの?」


「今は随分と復興が進んでいる。何よりも娘の晴れ舞台だ、多少の無理は通すさ」


 とてもやさしい顔でオレンジーナとエメラルダの頭を撫でるブラックリン。

 オレンジーナは恥ずかしそうに手をどけようとするが、エメラルダは嬉しそうに撫でられている。


「父上はお前たちに会いたくて馬車も使わずに馬で突っ走ってきたんだ。いい歳なのによくやるよ」


「まぁ! 無理はなさらないでくださいよ?」


「パーティーは何日も続きますから、もっと後でも良かったのではありませんの?」


「なにをいう、真っ先に祝いの言葉を言いたかったんだ。二人ともよくやった、私の自慢の娘達だ」


 この言葉にはオレンジーナもエメラルダも素直に喜んでいる。

 だがオレンジーナはハッとしたようにブラックリンの手を取り、ある場所へと引っ張っていく。


「お父様、ブルーもボーダーレスになりましたので、ぜひお祝いを言ってあげてください」


 エメラルダも気が付いたように後を追い、ブラックリンの空いている手を引っ張る。

 そして壁際にいるブルース達の前にいくと、ブルースはワイングラスを持ったまま硬直していた。


「お父様、ブルースだけではなくローザ、シアン、シルバーもボーダーレスです。あ、シルバーは初めてでしたか?」


「……そうだな、初めてお会いする」


 言われてシルバーは一歩前に出て、軽く会釈して口を開く。


「お初にお目にかかりますブラックリン卿。私はシルバー、マスターであるブルース様の部下です」


「ブラックリン・フォン・ワイズマン子爵だ。娘たちが世話になっている様だね」


 エメラルダはシルバーよりもブルースと話をして欲しいので、ブラックリンの腕を引っ張りブルースの方を向かせる。

 ブラックリンは引っ張られるままにブルースの方を向くが、その表情は少し険しい。


「この度はボーダーレスになられたそうで、おめでとうございますブルース殿。そして以前は我が領地を助けていただき感謝している」


 その言葉にブルースだけではなく会場が凍り付く。

 ブルースが家を追い出された事は有名だが、まさか血の繋がった息子にそこまで他人行儀に接するとは思っていなかったのだ。

 これには長男のクリムゾナも苦笑いをするしかなかった。


「ち、ちちう……」


 ブルースの言葉を遮ってブラックリンはきびすを返しオレンジーナ、エメラルダと肩を組む。


「さあお前達の武勇伝を聞かせてくれ」


「お、お父様⁉」


「あ、あのお父様、もう少しブルー兄様とお話を……」


 なんとか親子の会話をさせようとするが、それは突然鳴り響いたアラーム音によって中断させられた。

 二人のイヤリングの通信機からアラームがなり、宇宙のブラウンから緊急通信が入る。


『緊急事態発生、緊急事態発生、第四惑星より一.五パーセクの地点に時空振を確認しました。何者かが時空ワープで向かってきます』


 その通信はブルース達のみならず、パーティー会場全体に聞こえていた。

 だがこの声がどこから出ているのかわからないため、ボーダーレスのパフォーマンスか何かかと思っている。


「なんだ今の声は? 女の声だったが一体どこから聞こえてきたんだ?」


 クリムゾナは周りを警戒しているが、その声の出所であるブルース達はその場を離れ、バルコニーへと走っていた。


『近くに潜伏させていた機動兵器を向かわせました。それに乗ってこちらに合流してください』


 今度はバルコニーから声が聞えて来たので、やはりボーダーレスの能力の一環か? と会場からバルコニーに沢山の人が流れ出ようとする。

 だが轟音と凄まじい風により動きを止められた。


 六機の人型機動兵器が庭に着陸し、片膝を付くとコックピットを開けて六人に手を差し出す。

 いきなり目の前に現れた人型機動兵器に貴族達が騒ぎ出す。


「てっ、鉄の巨人だ!」

「ゴーレムか!?」

「あれもボーダーレスの力なのか⁉」


 貴族たちが騒ぐ中、ブルース達はそれぞれの手に乗るとコックピットに運んでもらう。

 人型機動兵器は六人それぞれの専用機であり、初期は大きさも形もまちまちだった。

 だが今は能力が上がり共通化され全高は十メートル前後、少し細身のボディーに背中に大きなスラスターが付いている。


 それぞれの違いは武装やブースターの数が違う程度だろう。

 五人がコックピットに乗り込んでキャノピーを閉じる中、ブルースだけが手の上に乗ったまま静かに振り返る。


「ブラックリン卿、本日はお会いできて光栄でした。私達はしばらく戻って来れないでしょうから、パーティーは中止するよう陛下へいかにお伝えください」


 ブルースとブラックリンの目線が合い、ブルースもブラックリンも表情を変える事は無かったが、ブラックリンは了解したという合図か軽く会釈する。

 それを見てブルースはコックピットに乗り込む、キャノピーが閉まると轟音と共に宇宙へと旅立っていく。

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