169.船内の水中戦

 順調に船内を進み、そろそろ船底に着こうとしたあたりで足が止まった。

 床に四角い穴があり、そこのハシゴから降りないといけないのだが、下の階は水で満たされていた。


「船の中なのに水?」


「貯水タンクから漏れたにしては多すぎるんだよ、ダヨ?」


「でも潜らなきゃ先に進めないし……よし」


 今のままでは長時間の潜水は出来ないので、ブルースは黒いパワードスーツを、シアンにはレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクス二機を使って同じような全身を覆うパワードスーツを装着した。


 以前シルバーが使っていたレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスを装備した時とは違い、今回はブルースのパワードスーツをベースとしている。

 なので性能はシルバー製よりも上だ。


「これでどのくらい潜っていられるの?」


『酸素は三時間持ちます』


「さ、三時間ってどのくらいなんだよ、ダヨ?」


『お昼からおやつを食べるまでの間です』


「す、すっごい長いんだな、ダナ」


 ブルースが足から飛び込み、それに続いてシアンも飛び込んだ。

 中は普通の水のようだが、真っ暗だったのでヘルメットと腰にあるライトを点灯させると、目の前に牙をむいた人の顔が現れた。


「うわぁああああ!!」


 慌てて殴り掛かるが、顔は素早く泳いで離れていく。

 どうやら下半身が魚の人魚タイプらしいが、少なくとも可愛い方の人魚ではない。

 ライトで周りを照らすと人魚に囲まれていた。


「ブルースぅ、あれ、顔をよく見て欲しいんだよ、ダヨ」


 シアンが指さした人魚を見ると、その目は蜘蛛の巣が張ったような繊維の目をしていた。

 だがよく見ると胸のあたりに穴が開いている者、魚部分の骨がむき出しの者、体の半身がない者などがおり、アンデッドであることは間違いない様だ。


「リック博士が作ったのか……でもアンデッドまで作ったのかな」


「ピーぃ! ぶ、ブルース!」

 

 雛のような鳴き声でブルースに抱き付き、シアンは恐怖で動けなくなっている。

 どうにも繊維目の敵は視覚的にも苦手のようだ。


「しっかり掴まってて!」


 背中にシアンを背負い、片手剣だけを呼び出して構えを取る。

 アンデッド半魚人たちが一斉に襲い掛かって来た。

 一番近くにいる相手に剣を斬りつけるが、あまりの速度のせいか、水の抵抗に剣が負けてしまい折れてしまった。


「ええっ!? このっ!」


 剣を捨てて殴り掛かろうとしたが、どうにも視界がおかしい。

 剣を振った勢いで体が回転しているのだ。

 かかとと背中のブースターで体制を整えるも、アンデッド魚人が爪で斬りつけて来る。


 パワードスーツに爪は通用しないが、このままでは何もできない。


「ぴー! ぴー! ぴ~~ぃ!」


「うわっ! お、思った以上に戦いにくい!? このっ!!」


 一気にかたをつけるべく、肩にレーザーガトリングガンを装備し発射する。

 だが水の中でレーザーは拡散され、全く効果が無かった。


「そんな! じゃあこっちだ!」


 レーザーではない火薬式のガトリングに交換したが、銃口が回転すらしない。


「なんで⁉ えっとえっと、これだ!」


 旧式の回転式拳銃を取り出し、アンデッド魚人に向けて発射する。

 弾丸は爆発音と泡と共に発射され、ようやく敵を倒せる……かと思ったら、一メートル程進んで勢いがなくなり沈んでいく。


『艦長、水中では専用の武器を使用してください。陸上武器では効果を発揮できません」


「うん、今体感した」


 いくつもの手段が通用せず、アンデッド魚人はあざ笑うようにブルース達の周りを泳いでいる。

 

「これは……逃げるしかないの?」


 ブルース達が思わぬピンチに見舞われている頃、アルマルカ帝国では一つの動きがあった。

 それは一人の少女の独り言だった。


「お父様、今日も朝早くからお城に行っちゃったのだ。お話できていないのだ」


 グラオが自室の窓から庭を眺めているのだが、父親であるエリヤス大公とはここ数日会えていない様だ。

 

「え? お父様の様子がおかしい? そうなのだ? お仕事が忙しくて疲れてるんじゃないのだ?」


 突然誰かと会話を始めるグラオ。

 しかし部屋には一人しかいないが……?


「女の勘? 私だって女なのだ! やだ! グレイは許さないのだ! 大人としての経験? 私だってもう立派な大人なのだ!」


 どうやら体に同居している魂のグレイと話をしている様だ。

 同居を始めて暫くはどちらかが表に出て片方は眠っているのだが、慣れると主導権をどちらが持つかに変わっていく。


「え? 調べたい事? それでお父様とお話が出来るのだ? うん、じゃあ変わるのだ」


 グラオが目をつむり、一瞬カクンと体の力が抜けるが直ぐに立ち上がる。


「ふむ、あ奴の様子を見たいところだが、まずは周囲の聞き込みから始めるとするか」


 十歳前後の見た目に反し、随分と大人っぽい喋り方になっている。

 扇子を広げて口を隠し、静かに部屋から出て行った。


 すると願ってもない相手が廊下を歩いていた。


「ふむ大公夫人、良いところで会ったな。エリヤス卿の事で話があるのだ」


 廊下で立ち話をし、大公夫人が頭を下げて去っていく。

 グレイは扇子で軽く顔をあおぐと、パチンと扇子を閉じて歩き出す。

 向かった先は執事やメイド達が休憩している部屋だ。


「あらお嬢様、このような場所に来てはいけませんよ?」


「お主たちに聞きたい事があるのだ」


 声を聴いて、くつろいでいたメイドと執事は一気に姿勢を正した。

 どうやらグラオお嬢様ではない事に気が付いたようだ。

 しばらく話をして部屋を出て来る。


「ふむ、やはり城に行かねばわからんか」


 馬車に乗り城に向かうと、城内は表面上はいつも通りだった。

 馬車を降りて城内に入ると、非常に目立つ集団を見つけた。


「おお、これはこれは聖女セイント殿、ローザ殿、エメラルダ殿、シルバー殿ではないか。ちょっとお茶をする時間はあるかな?」

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