170.グレイの捜査活動

「おお、これはこれは聖女セイント殿、ローザ殿、エメラルダ殿、シルバー殿ではないか。ちょっとお茶をする時間はあるかな?」


 グレイが城内で四人を見つけて声をかけると四人は一瞬戸惑った顔をするが、思い出したように態度が普通になった。


「えっと、グレイさんだっだっけ? 普段はあまり出てこないのにどうしたの?」


 ローザがしゃがみ込んでグレイの頭を撫でる。

 中身がグレイとわかっていても、まるで背伸びする子供の用で可愛い様だ。


「実は相談に乗って欲しいのだ。エリヤス卿の事でちょっとな」


 エリヤス大公はギーゼラ皇后の口車に乗っているので、ローザ達とは志を同じくする同志だ。

 それにアルマルカ帝国に来てしばらくは屋敷で世話になっていたので、相談となれば無下には出来ないだろう。


「じゃあ私の部屋にいこっか」


 ローザの部屋に入るとメイド達が慌ただしくお茶の用意をする。

 ついさっき出かけたばかりなのにいきなり帰って来たが、嫌な顔一つせずに用意をしている。

 準備が出来たのでイスに座りティーカップを手にする。


「それでどうしたの? エリヤス卿の事で何かあった?」


「それがなローザよ、最近様子がおかしいのだ。以前なら必ずグラオとの時間を取っていたのに、ここ数日はパッタリと無くなった。お陰でグラオが私に甘えてきて困っておるのだ」


 グラオとグレイは同じ体に入っているが、起きたままで会話が出来る。

 はたから見れば大きなひとりごとを言っているように見えるが。


「それは仕方がありませんわ。エリヤス卿はお忙しい身ですもの、特に今は大事な時期、しばらくは我慢してもらわないといけませんわね」


「大事な時期とはどういう意味だ? エメラルダ。例年通りなら今の時期は急ぎの用事など無いはずなのだが」


「いいえグレイ。エリヤス卿はいま使命に燃えています。グラオに伝えておいてください、御父上は国の為を思って動いていらっしゃるのです、と」


「ほほぅオレンジーナよ、その使命とはなんだ? お前達がエリヤス邸を出たことと繋がりがあるのだろうか?」


 アルマルカ帝国に来たばかりの頃は、グラオ・グレイの繋がりでエリヤス大公の邸宅にお世話になっていた。

 しかし今は城に住んでいる。

 他国とはいえ英雄と呼ばれる人材を自宅に招き入れたのに、それを皇帝に持っていかれたのだ。


 普通ならひと悶着あってもおかしくない。


「深い意味はありません。私はギーゼラお姉様と義理姉妹となりましたから、一緒に暮らす方が正常だと思いませんか?」


「オレンジーナ一人ならいいが、他の三人は関係なかろう? それに……ブルースと兎人コニードゥの娘シアンの荷物はまだエリヤス邸にあるが?」


 四人の動きが止まった。

 オレンジーナ、エメラルダ、シルバーの三人は直ぐに平静を取り戻したが、ローザの動きはギクシャクしている。


「どうしたのだローザよ。お前は特にブルースにご執心しゅうしんだと思っていたが、シアンに負けたのか?」


「負けてないよ! ブルー君とシアンが聞き分けがないだけなんだから!」


「聞き分けがない? お前達三人よりもシアンの方が大事だとでも言ったのか?」


「違うよ! ギーゼラ皇后がアルマルカ帝国を大きく――」


「ローザ、おしゃべりが過ぎますよ」


 オレンジーナがローザをせいし、替わりに口を開いた。


「グレイ、これ以上は話せないけどわかって欲しいの。ギーゼラお姉様と供にこの国をより強固に出来る事なのよ」


「……お前、気は確かか? ゴールドバーグ王国の聖女セイントともあろう人間が、他国を強固にするだと? それは誰の命令だ、ゴールドバーク国王が言ったのか?」


「いいえ、これはゴールドバーグ王国だけの問題ではないの。この大陸、この世界の為にやる事なのよ」


「これはこれはご高説痛み入る。世界の為にブルースとシアンを捨てたのか?」


「私達はマスターを捨ててなどいません。私達はいち早く事の重要性に気が付いただけで、マスターとシアンには根気よく説得をしていきます」


 捨てたと言われて黙っていられなかったのか、シルバーが大きめの声で反論する。

 シルバーはブルースに従属しているので、捨てる捨てないの立場が逆だ。

 それに捨てられてはシルバーの存在意義が無くなってしまう。


「ふむ……あの日、貴族達と共にお前達が城に呼ばれた日、一体何があったのだ。あの日から全てが違和感だらけになってしまったぞ?」


「知らなかった事を知っただけですわ。そして共感しましたの。この星は一つになるべきなのですわ」


「ホシ? 夜空を彩る星が何だというのだエメラルダ」


「ふふふ、私達はあなた方の知らない事を知っていますわ。その上での行動と思っていただければ幸いですわね」


 これ以上は会話が進まないようなので、四人は席を立つ。


「私達は行くけど、お茶とお菓子を楽しんでいってね!」


 客であるグレイを置いて、四人は部屋を出て行ってしまった。

 残されたグレイはため息をつき、クッキーを一つ口に入れる。


「星だと? 確か千年以上前に姿を消した国が言っていたな。我々が住んでいる場所は空に輝く星と同じなのだと。まるで見てきたように言っていたが……しかし知識で負けたのは久しぶりだな」


 グレイも部屋を出て城内を歩いている。

 だが考え事をしているのでよく人にぶつかる。


「やはり義理の姉妹になったのは本当だったようだが、そうなると遂にギーゼラとアルマルカの立場が逆転してしまうな。皇帝よりも上に立つ皇后か……周りが正常ならば内乱になるが、さっきの話だと貴族共はギーゼラ側に付いたように感じる。となると外か」


 人にぶつかりながらブツブツ独り言をいい、ある部屋の前までやって来た。

 本来ならば簡単に入れない部屋なのだが、今はグレイなので見張り役の二人も中の人物に確認を取った。


「どうしたんだグレイ。いきなり来るなんて珍しいな」


「急ぎ確認をしたい事があってな。皇帝よ、まずはどこから攻めるんだったかな」


「ああその事か。まずは西のサザランドを攻め、次はサザランドの北にあるレーベングラッハだ。海軍力では我が帝国が上回っているし、あのゴールドバーグ王国の英雄達も力を貸してくれるから、短期決戦となるだろうな」


「そうだな。忙しい所すまなかったな」


「構わんよ。お前には世話になっているからな」


 アルマルカ皇帝の執務室を出て、グレイは扇子を広げて口元を隠す。


「これはマズイ事になったものだな。一平民の小娘が皇后の座だけでは飽き足らず、皇帝を抜いて他国を攻めようなどと……これは私だけでは手に負えんぞ」

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