136.神の情報 裏技

『ダメよ。降参は認めないわ』


 そんな無情なオレンジーナの声が通信機から聞こえて来た。

 いつの間にか通信まで乗っ取られ、しかも考えている事が筒抜けになっていた事で、司令官の戦意は完全に消失していた。


「我々は助けを乞う事すら許されないのか?」


『助けたいのは山々だけど、降伏をしても情報を売ろうという考えは持たない方がいいわね。特に、あなた方の神に関する事はね』


「君たちはどこまで我々の情報を知っているのだ?」


『あまり知らないわ。喋ってくれる人がみんな死んじゃったから』


「君たちが殺したのだろう?」


『戦闘以外では殺さないわよ? 残念だけど、あなた方の神が情報の提供を許さないのよ。知ってる? いきなり頭が爆発したのよ?』


 通信を聞いているクルー達は内容を理解できないだろう。

 しかし残念な事に、理解できる者が少なからず存在してしまったのだ。


 神に対して懐疑的な人間は少なからずいる。

 そんな人間の間にウワサとして流れている事があるのだが、その内容とオレンジーナの話しが一致してしまったのだ。


 それ故に神の制裁が発動してしまった。

 ブリッジにも二名いたようで、司令官も副司令官も二名の頭が爆発するさまを見てしまったのだ。


『あら? いま破裂音がしたけれど、ひょっとして誰か死んだのかしら?』


 オレンジーナの落ち着き払った言葉に、司令官は背筋が凍る思いだ。

 この声の主は自分達を使って実験しているのではないか? これ以上の通信は更なる悲劇を呼ぶのではないか? 考え出したらきりがなかった。


 しかしこの通信を切ってしまえば、本当に降伏の交渉すら出来なくなる。

 母星に戻れば死刑となり、このまま戦えば戦死、降伏しても神に裏切り行為と取られれば死亡。


 八方ふさがりだ。


「我々に……どうしろというのだ」


『そうね、まずは降伏してちょうだい』


「降伏は認めないんじゃなかったのか?」


『知った後なら構わないわ。でもあまり期待はしないでね? 良い処遇では無いと思うから』


 第一艦隊の司令官(もう要塞母艦一隻しか残っていないが)は、生唾を飲んで降伏を宣言しようとするが、それを邪魔するものが現れた。


「ふざけるな!! ここまでされて命が惜しいはずないっぺ!」


 第二艦隊、第三艦隊の要塞母艦だ。

 この二艦隊も既に要塞母艦しか残っておらず、単身で攻撃をしている。

 搭載されていた戦艦や艦載機は全て出港済みのようだ。


「待てやめろ!! これ以上の戦いは無意味だ!!」


「うるさい! 低ランク文明に下る位なら死んだ方がマシだ!」


 二隻の要塞母艦は必死に攻撃しているが、動きの鈍い船の真正面からの攻撃に当たるはずもなく、ブルースの砲撃モードで簡単にバリアフィールドをはがされ、一隻はローザパンチで真正面から要塞母艦を貫通、もう一隻は全方位からシアンのホーミングレーザーで轟沈してしまった。


 二隻の司令官は、最後の最後までブリッジでブルース達を睨みつけていた。


「ばっか……バカ野郎……っ降伏する。指示をくれ」


 本当に最後の一隻となってしまい、司令官はシートにガックリとうな垂れている。

 するとオレンジーナからは意外な答えが返って来た。


停滞ステイシスフィールド? もちろんあるがどうするのだ?」


『全員が入れるだけの数やスペースはある?』


「数は乗組員の七十パーセントしかない」


『十分よ』


 停滞フィールドは人一人が眠れる箱が大量に並べられ、その中に入る事で時間の流れがゆっくりになるという物だ。

 入れるだけ入れると、残りは外宇宙探索戦艦ファランクスに移動させる。

 

 百万人分の停滞フィールドがあるので、数にはまだまだ余裕がある。

 要塞母艦の権限を完全移譲させ、司令官を残して全員が停滞フィールドに入った。


「後は俺が眠って終わりか」


「いいえ、あなたには別の事をしてもらうわ」


 停滞フィールドのエリアにオレンジーナとシルバーが現れた。

 オレンジ色の太陽のように輝く長いストレートヘアー、おっとりとした表情で少したれ目。

 白く体にまとわりつくワンピースには、 金の糸で袖口や腰回りに刺繍が施されている。


「君がこの船の艦長か?」


「私じゃないわ。あなたはここじゃない、付いてきて」


 通路を通りしばらく移動すると、一つの扉が静かにスライドする。

 中に入るとどうやら医務室のようで、中には小型ポッドが置かれていた。


「この中に入って」


 すでに抵抗するつもりは無いようで、オレンジーナの指示に無言で従う司令官。

 帽子をかぶったままポッドに入り横になると、カバーが閉じると同時に頭の付近から何本もの配線が触手の様に現れ、帽子を脱がせて頭に張り付く。


 流石に驚いているが、それでも抵抗するそぶりはない。

 いや、次は別の意味で驚く事になる。


「調子はどうかしら?」


『これは……一体どういう事だ?』


 オレンジーナに変わってシルバーが説明を始める。


「これはコールドスリープポッドです。あなたは寝ていますが、モニターを通して会話できるようにしました。寝ている状態なら神の目をあざむけるのではありませんか?」

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