137.スクラップ艦隊、編成

『つまり俺は、夢で会話をしている様なものか?』


「その様な解釈で構いません」


 コールドスリープポッドで寝ている敵司令官は、文字通り夢のような感覚で会話をしている。

 意外としっかり会話が出来るため、夢とはいえ不思議な感覚だろう。

 モニター上部にあるカメラで周囲が見えるため、顔をあちこちに向けている。


『それで何を聞きたい?』


 聞きたい事を一通り聞くのだが、やはり神に関する情報はかなり少ない。

 ある程度文明が育ったら、後は偉い方々としか関わっていない様だ。

 なので敵の母星の話しがメインになる。


『アリアルファ星系よりも銀河中心に近く、周囲には星がに沢山ある場所だ。そこで三つの恒星系に拠点を築き、防御・攻撃の両面に強い所だ』


 どうやら三つの恒星系の中央付近に母星があるらしく、星が近いためワープに制限があるようだ。

 巨大な恒星がいくつかあり、重力変動を起こすためワープが安定しないのだとか。


 なので基本的に母星に行けるルートは三つのみ。

 しかし当たり前だがそのルートには防衛拠点が作られており、攻め込むには拠点を破壊する必要がある。


 通常航行ならどこでも通れるらしいが、ワープ無しでは何年かかるかわからず、来たら来たで直ぐに迎撃が可能だ。

 なので三つのワープ回廊を攻略しない限り、母星へたどり着くことが出来ない。


「攻め込むにはリスクが大きすぎるわね……」


「その様ですね。それに三つの恒星系を支配しているのであれば、その艦隊数もかなりの数なのではありませんか?」


『そうだな、一番新しい艦隊が第五十六艦隊だ』


 ワープ回廊を守る防衛拠点や、その駐留軍は艦隊には数えられていない。

 五艦隊で七万隻を超えるのに、更に十倍以上の船がいる事になる。


「ふぅ、そっちは保留ね。今の戦力じゃ危険すぎるもの」


「母星の位置が分かっただけで良しとしましょう。今は戦力を整える事に専念した方が良さそうです」


 聞きたい事を聞き終わり、司令官は通常の眠りについた。

 起こしたい、いや話しを聞きたいときには直ぐに会話が可能だそうだ。


 食堂に集まり改めて今後の話しをしている。


「まずは僕たちの星を護る事が最優先。だからこの星系の周囲に防衛部隊を配置したいね」


「って言っても、船の数はそんなに多くないよ? ブルー君はもう一隻ブラウンを出せるの?」


「それならば、捕獲した要塞母艦を使えばよろしいんではありませんの?」


「大きくても一隻だけじゃ、とても護りきれないんだよ、ダヨ」


「なら残骸をかき集めて修理する? 数千隻分は集まると思うわよ」


「確かにこの宙域には資源が豊富ですね。しかし修理するとなると時間がかかり過ぎます」


 いろいろ意見が出てくるが、考えは同じ方向を向いていても実行するのが困難な現状だ。

 やはり攻め込むという選択肢は今のところ無いのだろう。


『船の構造は要塞母艦を調べた時に入手しています。残骸を回収しその上で小型化を施せば、数を稼ぐことが可能です』


 総合的な情報はやはりブラウンが一番持っている。

 数を揃える選択肢が限られている以上、今あるものを活用するしかない。


「わかった。じゃあまずは残骸の回収をしよう」


 外宇宙探索戦艦ファランクスに搭載されている各種戦艦・人型機動兵器・艦載機などを全て使い、広範囲に散らばった残骸をかき集めていく。

 中には原型を留めている物も複数あり、思った以上に資源の回収が出来ている。


『順調に回収が進んでいます。この分ならば一万近くの艦船が作れそうです』


「資源を集め終わったら、僕達はする事が無くなっちゃうね」


『これからは私の仕事です。艦長達は地上に降りていてください。問題が発生しましたらお知らせします』


「そうだね。じゃあ後はよろしくお願いね」


 ブルース達が人型機動兵器で地上に降りると、ブラウンは要塞母艦に搭載された船を全ておろし、そこを工場として船の制作を開始した。


 さて地上に降りたブルース達だが、宇宙戦争をしている間に第四惑星では大きな変化が起きていた。

 ブルース達が住む国ゴールドバーク王国では、第一王子が即位していたのだ。


 国を挙げてのお祭りとなるのだが、聖女セイントがいないため即位の儀式が延期されていたのだ。

 聖女セイントが居なくても神官達がいれば良いと思うのだが、どうしても聖女セイントでなければいけない理由があった。


聖女セイントオレンジーナはまだ帰ってこないのか?」


「申し訳ありませんアンソニー殿下でんか。自宅に何名も向かわせているのですが、まだ帰って来ていないようです」


 オレンジーナの帰りを今か今かと待っているようだが、やはり落ち着かないのか机を指でトントン叩いている。


「まさか国から逃げてなどいないだろうな」


「それはありません! 聖女セイントが国を捨てるなどあるはずがありません! それに……」


「そうだな、即位式では同時に聖女セイントとの婚約発表もある、逃げるはずがないな」


 そう、アンソニー第一王子とオレンジーナは結婚するのだ。

 当然ながら、オレンジーナ本人は全く知らない話しだ。

 なのでブルースの自宅にはとんでもない数の兵士が詰めかけていた。

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