131.最後の十日間
アリアルファ星系へ向けて進む大艦隊。
すでに二光年近く離れているのだが、通常航行中にエネルギーを補充し、ワープに必要な分を溜めるらしい。
しばらくは時間に余裕があるため、第一艦隊司令官と第二艦隊司令官が自室でビデオチャットしている。
『いよぅ司令官殿、そっちのちっさい連中の被害はどうだべ?』
「こちらの被害はかなり甚大だ。駆逐艦は三割が破壊され、巡洋艦も一割近くを失ってしまった。そちらはどうなんだ?」
『こっちゃチビ助は二割、お兄ちゃんは一割未満だんべ。パパママは被害なっしんぐ』
第一艦隊司令官と第二艦隊司令官の会話だが、士官学校時代からの付き合いなので随分とフランクだ。
能力的にはほぼ同等なのだが、真面目だからという理由で第一艦隊の司令官に採用された。
「それよりも、そちらのエネルギー充填率はどれだけだ?」
『ん~? 四十二パだな』
「他も四十パーセント前後だな。ワープには最低でも四十パーセントあればいいが、その後の攻撃の分も考えると六十パーセントは欲しいか」
『じゃあ十日から十五日位だべ。その後はワープって撃ってゴーホーム?』
「そうだな。惑星破壊程度なら十パーセントも必要ないし、その後は恒星の光が強ければ外部からも補充が可能だ。二十日か三十日もあれば帰れるだろう」
『んじゃノンビリ行くとするべ』
「ああ、そうしよう」
通信が終わり、司令官の自室は静寂に包まれる。
「本当にアレで終わりなのか……? 確かに手強かったが、あの星には他に危険な物は無いのか?」
イスの背もたれを倒し、天井を見ながら自問自答している。
仮に他にも居たとしたら、今度は勝てる保証がない。
一隻を相手に手こずったのに、二隻も三隻も出てきたら逃げるしかない。
「だが二隻以上あるのなら直ぐにでも出てくるはずだ。僅かな時間を稼ぐために一隻を囮にするなど考えられない」
そう思いはするが、考えがまとまらないのか唸っている。
かぶっていた帽子を脱いで顔に乗せると、両足を机の上に乗せて頭の後ろで指を組む。
そして悩みながら眠りにつくのだった。
その頃ブルース達は一対五でひたすら戦闘を繰り返していた。
戦艦をファランクスシステムで取り込んだブルースは、戦艦を人型兵器に変形させ、六百メートルを超える巨体にもかかわらず素早い動きで翻弄している。
「ちょ!? ブルー君速すぎよ!」
「でも攻撃は届くんだな、ダナ!」
戦艦のままのローザとシアンだが、こちらも戦艦とは思えない速さ、旋回速度でブルースを追いかける。
そしてブルースの前に巨大な鳥が現れゆく手を阻む。
「逃がしませんわお兄様! ジズ! 動きを止めなさい!」
相変らず未来的な鎧を纏った姿のジズだが、光の翼を広げてブルースを包み込もうとする。
それをブースター全開で逃げ切り、今度はブルースがジズに殴りかかろうとする。
「ダメよブルー。動物は可愛がるものよ?」
遠方から見ていたオレンジーナがジズに強固な結界を張ると、ブルースの拳が防がれたうえに巨大な鎖がブルースの巨大人型機動兵器に巻き付いた。
「マスター、お覚悟を」
オレンジーナと同じく後方から支援していたシルバーが、長距離レーザーの照準をブルースに合わせる。
ブルースの胴体に照準を合わせると静かにレバーのスイッチを押す。
レーザーを絞り細くなった青い線がブルースの機体に命中して強い光が放たれる。
やっと当たったか⁉ と喜ぶ面々だが、残念ながら機体を押さえていた鎖は引きちぎられ、レーザーも手のひらに集中させたバリアーで防がれていた。
「これでもダメなの⁉ んもぅブルー君強すぎよ!」
「も、もう一回やるんだよ、ダヨ!」
「ジズ! 今度は光の翼で完全に包み込むのですわ!」
「ブルーったら! 本当に……強くなってお姉さんは嬉しいわ!」
「引き続きデーター収集を行います」
五人は悔しがって? いるが、実はブルースもかなり必死だった。
ただの戦艦なら問題ないが、通常の戦艦+各自のスキルが乗っているため、とても船とは思えない挙動・攻撃を仕掛けてくるのだ。
しかも全員がランク三相当。
シルバーに限っては第五ランク世界の技術であり、戦艦や人型兵器との相性もいい。
「い、今の怖かった……負けたと思った」
休憩時は六隻の船が一か所に密集し、それぞれの船を接触させることで行き来が出来るようになる。
なので寂しくはないようだ。
そして十日後。
敵の大艦隊が遂にアリアルファ星系に到着した。
「司令官、アリアルファ星系に到着しました。今から第四惑星の破壊に移ります」
「よし、跡形も残さずに破壊しろ。だが油断はするな、何が起こるかわからないからな」
「お任せ下さい」
副司令官の命令により全艦の主砲が第四惑星へと向けられる。
攻撃のカウントダウンが十から開始され、今まさに第四惑星が消滅しようとしたその時、巨大な重力異常と空間湾曲が観測された。
「攻撃中止! 一体何がワープアウトして来るというのだ!!」
司令官がカウントを二で止め、ワープアウトしてくる場所を拡大させる。
「バッ! バカな!!」
ワープアウトしてきたのは、全長十キロメートル、横幅三十キロメートルのL字型をした巨大な船、
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