123.私だって攻撃できますのよ?

「さあご老人方、その賢者セージの居場所を話して頂きますわ」


 エメラルダが一歩足を踏み込むと、ウォーケンはもちろん男達も後ずさりする。

 ウォーケンはまだ踏みとどまっているが、後ろの男達は直ぐにでも背中を向けて逃げ出しそうだ。


「あら逃げますの? ボーダーレスを連れてきてこんな小娘を怖がるだなんて、あなた方はよっぽどボーダーレスを信用していないようですわね」


 ふと見ると、ウォーケンの手首は肉が沸騰したように泡立ち、両手が再生された。

 どうやらブルースの兄、シャルトルゼやそれ以降のバンデージマンの一種らしく、再生能力が強いようだ。


 再生した手を一度力強く握るとウォーケンは手を高く持ち上げ、エメラルダ目がけて一気に地面に叩きつけた。

 手のひらが地面に付いているので、流石のエメラルダでも地面に伏してしまったのだろうか。


「あらあら、狩人ハンターが力任せに力を振るっては、獲物が逃げてしまいますわよ?」


 ウォーケンの手が丸くくり抜かれ、そこにエメラルダが立っていた。

 手の甲に右足を乗せ、軽くジャンプするとウォーケンの右肩に両足で着地する。

 右足をウォーケンの首に絡ませ、ウォーケンの後ろ側に体重をかけるとその首が後ろ側にだらしなく垂れ下がる。


 簡単に首が折れたように見えるが、足を絡ませた時点でヒビが入っており、後は軽い力が加わるだけで折れる状態だったのだ。


「エメ? ペガサスやグリフォンは使わないの?」


「ええお姉様。私自身の力を知りたいんですの」


 ペガサスやグリフォンに乗らないと、エメラルダの能力は大幅に制限を受ける。

 あえてそうする事で、自分自身の力を知る事が出来るのだが、とんだ縛りプレイだ。


 首から足を離すと、ウォーケンは背後に倒れ込んだ。

 垂れた頭が背中に潰されそうだが、どうやら石頭だったようだ。


「とはいえ、狩人ハンターのボーダーレスでは相手になりませんでしたわね」


 チラリと後ろを見てウォーケンを確認するが、当たり前のように立ち上がり、折れた首はゴキゴキと音をたてて治っていく。

 エメラルダはため息をついて振り向くと、随分と珍しく真面目に剣を構えた。


 フェンシングの様に突く形で剣を構え、少し姿勢を低くする。

 静かに息を吐き、息を止めると目を見開いて口を開いた。


「≪一気呵成シャイニングアームズ(いっきかせい)≫!」


 エメラルダの右腕が消えた。

 いや、右腕があまりにも早く動いているので肩から先が光っているのだ。

 無数の光がウォーケンに刺さり、光が刺さった場所は何も無かった様に穴が開きえぐれていく。


 数秒後、ウォーケンの体はどこにも無くなっていた。


「お、おお~、エメちゃんの剣の技、始めて見たかも?」


「私も初めてだわ。移動速度に特化したスキルだと思ってたけど、あんな凄い攻撃もあったのね」


「あっという間だったんだな、ダナ!」


「エメラルダの技、まるでレーザー攻撃のようですね」


『エメ凄いじゃないか! 制限を受けた中でこの力は凄いよ!』


 みんなに褒められて、少し照れて構えを解くエメラルダ。

 レイピアを一振りして鞘にしまうと、男達を睨みつける。


「さ、賢者セージの話を聞かせてもらいますわよ?」


 その言葉を合図に男達は悲鳴を上げて逃げ出した。


「あー! 逃げた! どこ行くのよ、コラー!」


 ローザが大声を上げるが、声を出すだけで何故か止めようとしない。

 それもそのはず、男達の逃げる先には……ジズが下りてきたのだ。


 巨大な怪鳥ジズが目の前に下りてきて、それこそ逃げる気力すら無くなってしまったのだろう、その場にへたり込んでしまった。


「クケーーーー!!」


 などと翼を広げて鳴くものだから、男達はへたり込んだまま気を失った。


 男達は息苦しくなって目を覚ました。

 十名以上の男達は、座った状態で木に縛り付けられていたのだ。


「なんだコレは⁉」


「マスター、男達が目覚めました」


「あ、本当だ。みんな、尋問の時間だよ~」


 ぞろぞろと四人が現れ、その顔は不気味な笑みを浮かべていた。

 

「さぁ~色々と教えてもらうからね~?」


「ふふふふ、どんなお仕置きがいいかしら」


「そんな物は決まっていますわ」


「や、やるんだな、ダナ!」


 山に悲鳴が響き渡った。


「うひゃひゃひゃひゃ! あは、あはーっはっはっは! やめ、やめろ! それ以上、それ以上はっひゃっひゃっひゃ!」


 カラスから抜けたような黒い羽根で、男達の足の裏をくすぐっていた。

 中々口を割らないので随分と時間がかかったが、最後には笑いすぎて失禁する者までいた。


「おかしいよ、私達が会った時はお爺さんだったんだよ!?」


「でも青年って言ってたわね」


「白髪で長身のお爺ちゃんのはずなんだな、ダナ」


「一体どういう事ですの?」


 ブルース達が会った時は長い白髪で背の高い老人だった。

 しかし男達が会ったリックはまだ若く、髪は茶色でシワ一つなかったらしい。


「死んでないとは思ってたけど、まさか若返ったのかな」


「倒して若返られたら手に負えないよ!」


 うんうんと唸って考えるが、中々答えは出てこない。

 結局結論は出なかったので、今回は要警戒という事で終わらせる事になった。

 男達は木に縛ったままにして、別の街に行って通報するようだ。


「よし! それじゃ旅を再開だ!」


 やっと本来の目的である旅行に戻る事が出来た。


☆★とある惑星★☆

「あの者達の処分は終わったか?」


「ああ、随分と派手にやられた上に、何も覚えていないと来たからな、役立たずは必要ない」


「ではやはり?」


「うむ、アリアルファ星系には、危険な力を持つ者が存在すると考えていいだろう」


「では三回目の議決を取ります。アリアルファ星系へ第一から第五艦隊の派遣に賛成の者は挙手を」


 全員の手が上がった。


「ではアリアルファ星系を破壊し、脅威となる存在の抹消を開始します」

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