124.休暇の終わり

☆★とある惑星の衛星軌道上★☆

 宇宙船の一室から外を眺めている複数の姿がある。

 一人はキッチリと清潔感のある制服を着た男、もう一人は制服をだらしなく着崩した男だ。


「この戦力はどーなんだべ?」


「どうとは?」


「田舎にピクニックに行くにゃ大仰おおぎょうだべ」


「だが五装備の艦隊がボロボロで帰って来たらしいからな、第一から第五艦隊までを出すのもうなずける」


 艦隊の出撃準備が整えられている様子を見ながら、その多すぎる船から得られる感想は真逆だった。

 

「んでもな、こんだけいたら星どころか恒星、うんにゃ、恒星系を二つ三つ壊しちまうべ?」


「確かに壊せるだろう。今回の相手はそれだけ手ごわいと判断したのだろうな」


「お偉いさんはオイラ達の知らない情報をもってっからなぁ、やれと言われりゃやるんだけどもな。ま、細かいことはお任せしまっせ、第一艦隊司令官殿」


「第二艦隊の司令官にそう言ってもらえて安心した。最小の行動で最大の成果を出してみせるよ」


 だらしなく着崩した男がヒラヒラと手を振って離れていく。

 キッチリした男は首だけを向けて見送ると、もう一度窓から外を眺める。


「確かに過剰戦力な気がするが、政治家達はどんな情報を持っているのか……」


 帽子のツバを持って深くかぶり直し、キッチリした男は姿勢正しく歩きだす。

 第一艦隊から第五艦隊の艦船合わせて七万六千隻。

 大小さまざまな船が入り混じっているが、たった一つの星を攻めるには過剰すぎる戦力だ。


☆★アリアルファ星系★☆

草原でくつろぐブルース一行だが、随分と沢山の動物に囲まれている。


「キャー見てブルー! この子猫の仕草カワイイー!」


「あーんもう、なんで逃げるのよー!」


 オレンジーナは膝の上に子猫を置いて癒され、ローザは猫を撫でようとして逃げられている。

 シアンは寝そべって子犬をつんつんし、エメラルダは小動物に囲まれて目移りしている。


 ブルースは大型犬を撫でまわし、シルバーは頭の上にカラスを乗せていた。


「マスター、私の頭にカラスが乗っています」


なつかれてるね」


「懐かれる? 私は単独重武装兵器のファランクス、アンドロイドですが?」


「シルバーは人にしか見えないからね」


「ですが私は――」


「きゃーどいてどいてー!」


 逃げた猫を追いかけていたローザが、シルバーの胸に激突した。

 身長差もあるので、ローザの顔が丁度シルバーの胸に当たる。


「あいたたた、ごめんねシルバー。猫ばっかり見てて気が付かなかった」


「いえ構いません。お怪我はありませんか?」


「大丈夫! なんか胸が柔らかかったから! あれ? シルバーの胸って鉄じゃなかったっけ?」


 はっとして胸を隠すシルバー。

 しかし軍服をつまむと中から厚みのある繊維を取り出した。


「衝撃吸収用にクッション材が入っていますので」


「ああそう言う事ね! お陰で怪我しないで済んだわ!」


 とローザは納得したようだ。

 が、実は納得しておらず、あの柔らかさは絶対にクッション材じゃないという確信があった。


 しかし特に口に出す事は無く、また猫を追いかけ始める。


 すっかり日が暮れ、ブルース達は少し高級な宿に入っていった。


「あー楽しかった! 本気を出したら猫って簡単に捕まえられるもんなんだね!」


「ローザ? 普通は猫の方が素早いから捕まえられないからね?」


「ローザったら本当に本気で追いかけるんだもの、猫が可愛そうだったわ」


「ローザ、大人げないんだな、ダナ」


「それにしても、ローザの姿を一瞬見失いましたわ。不覚!」


 ローザはベッドに飛び込み、ブルースとオレンジーナは椅子に座り、エメラルダとシアンは自分のベッドに腰かけ、シルバーはお茶の準備をしていた。


 旅行を満喫しているようだが、その旅も三週間を過ぎたので、旅行は残り一週間で終わりとなる。

 しかし残念ながら残りの一週間はキャンセルとなってしまう。


「マスター、ブラウンから連絡が来ます」


 シルバーに言われ、ブルースはイヤホン型端末を耳に装着する。

 端末から映像が流れ、ブルースの目の前に小さく表示された。

 

「えっと、『送り返した艦隊と同系統の技術を持った大艦隊が接近中。太陽系から一光年離れた場所に誤誘導が成功しましたが、迎撃しない場合は十日以内にこの星へと到達します』か」


 そこまで読み上げたが、イマイチ理解できていない。

 それもそのはず、大艦隊といわれても、この前より大規模なら問題は無いと思っているからだ。


「ねぇブルー君、大規模ってどのくらいの数なの?」


「さあ? どの位なの? シルバー」


「今ブラウンに確認をしています……総数は七万隻を超える様です」


「へ~、七万隻か~……ええぇ!?」


「この前戦った敵は何隻だったのかな、カナ?」


「艦船は七十四隻で、艦載機は五百機近くでした」


 そこまで言われてゾッとする。

 かなりの数がいたと思っていた前回よりも、圧倒的に数が多すぎる。


「一千倍近くね。そんな艦隊が何をしに来るのかしら?」


 みんなの視線がシルバーに集まる。

 そしてシルバーが発した言葉は絶望するに十分だった。


「この星の完全なる破壊の様です」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る