122.賢者の足跡
目と鼻を隠す皮のマスクをかぶり、口に猿ぐつわを付けた大男が現れた。
身長は四メートル近くあり筋骨隆々、上半身は裸で破れたズボンをはいている。
「ウォーケン! あの女どもを捕まえろ! そして巨人達を下がらせるるんだ!」
ウォーケンと呼ばれた大男は地響きを立てながら歩き、オレンジーナとシアン、エメラルダに手を伸ばす。
オレンジーナとエメラルダはウォーケンを睨みつけるが、シアンはポーションで治療を続けている。
『三人とも離れて!』
「大丈夫ですわお兄様。こんな
エメラルダが一歩前に出るとブルースとローザを制止する。
ウォーケンの前に立ちはだかるが、ウォーケンは止まる事なく腕を伸ばしてエメラルダを掴もうとする。
エメラルダは歳の割に身長があるが、年相応に華奢だ。
そんな華奢な胴体を大きな手が掴もうとする。
「気に入りませんが、力の差という物をお見せしますわ」
大きな手がエメラルダの体を腕ごと掴む。
そして持ち上げると高々と掲げて威勢よく叫び声を上げる……のだが、ウォーケンの様子がおかしい。
「思った程ではありませんのね。これなら簡単に逃げられますわ」
エメラルダが腕を広げると簡単にウォーケンの指に隙間ができ、何事も無かった様に手から離れて地面に着地する。
すぐにウォーケンは両手で掴もうとするのだが、エメラルダは両腕を広げて簡単に受け止められてしまった。
「ななな、なんじゃとぉ!? ウォーケンの怪力を受け止めて平気なのか!」
老人は冷や汗を流して驚いているが、当のエメラルダは小動物を相手にしている程度の力しか出していない。
「怪力、ですの? これ」
「エメ? あなたは防御が強くないんだから、無理をしてはダメよ?」
「わかってますわお姉様。でもこんなに弱いとは思いませんでしたの」
エメラルダは
しかしそれを確かめるチャンスが無かったため、自分でも改めて驚いているのだ。
「動きは鈍そうですし、力比べ以外で何ができますの?」
「バカなバカなバカな! ボーダーレスのウォーケンが力で負けるなどあり得ん!!」
気になる言葉が出てきた。
ウォーケンがボーダーレス? まさかこんな無意味な儀式で本当にボーダーレスになった者が居るのだろうか。
驚いたオレンジーナがウォーケンを調べると、確かにスキルが二つ書かれている。
「
狩りをするにはこの巨体では難しそうだが、何故かこんな体になったようだ。
ボーダーレス化したら、新しいスキルに相応しい体になるはずなのだが。
「な、なぜウォーケンのスキルを知っている!? まさかお前も
まさかこのウォーケンは、あのリック博士の実験体なのだろうか。
だとしたらこの儀式はリック博士が?
『
「お前達はリック様を知っているのか!?」
『知り合いじゃないわよあんなの!!』
「ローザ? 一体どうしたの?
『そう! ブルー君の兄弟をバンデージマンにした調本人! 簡単には死なないと思ってたけど、まさかこんな所で名前を聞くとは思わなかったわよ!」
話している途中で感情が高ぶったのか、ハンマーから降りて来た。
そしてエメラルダを必死に潰そうとしているウォーケンに近づく。
「ちょっと! まさかこいつもアレに作られたんじゃないでしょうね!」
男たちの目が泳ぎ始める。
まさか作られたとはいえず、作ってもらったと言ってしまうと儀式の意味が無くなってしまうのだから。
「エメちゃん、ちょっとこいつを譲ってくれない?」
「お断りですわ」
「うん、ありが……あれ?」
「シャル兄さんは愚か者ですが、それでも私の兄だったのですわ。バンデージマンとの繋がりがあるのなら、コレは私の獲物ですわ」
そう言うとウォーケンの両腕は大きな音をたてて交差した。
一瞬エメラルダが潰されたのかと思ったが、ウォーケンの手首から先が無くなっており、エメラルダは細身の剣レイピアを手にしていた。
ウォーケンの腕を抑えているのをやめると同時に剣を抜き、一瞬にして両手首を切り落としたのだ。
「さあご老人方、その
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