104.神のお墨付き。負け確定

「対象の位置を確認、今度は手加減の必要はないから、仲間と思われる相手も巻き添えにして対処しろ」


 大気圏に突入した中型宇宙船は、迷うことなくブルース達の家へと向かっていた。

 船体が赤くなる事もなく大気圏を突破し、グライダーのように小さな翼を使い大気内を移動する。


「見えた、あの家だな」


 コックピットには一人しか乗っていないようで、他の船員の姿は見えない。


『隊長、俺達も出ていいんすよね?』


 スピーカーから音声が聞えて来た。


「ああ、だが最初は俺が撃つからその後だ」


『ちょ、主砲撃ったらそれで終わりじゃないっすか!』


「俺だって腹が立ってるんだよ」


 スピーカーからはえーっという声が聞こえるが、隊長はそんな事はどうでもいいようだ。

 外を映すモニターに王都が映り、更に拡大して一軒の家が見えてきた。


「まずは驚かせてやろう」


 宇宙船が接近している事は、ブルース達も気付いていた。

 だからと言ってどう対処したらいいのかわからないのだが、それでも必死に考えているようだ。


「前に調べた限りでは、一発撃たれればこの街は消えて無くなります」


「え!? 一発で王都が消えるって事!?」


「はいマスター。恐らくは探査船だと思いますが、街一つを破壊するのはたやすいでしょう」


 家で話し合いをしているが、話合いと言ってもブルースとシルバーしか参加できておらず、シアン、オレンジーナ、エメラルダは聞いているだけだ。

 何の対策も出来ないまま、シルバーは外を見て立ち上がる。


「来ます」


 轟音と共に強烈な風が吹き荒れ、家が吹き飛びそうなほどに揺れ動く。

 それが収まり外を見ると、空にフタがされたように陰になっていた。


「な、なによアレは!」


「あわわわわ、龍みたいなのがいるんだな、ダナ」


 慌てふためくオレンジーナとシアン。

 二人は宇宙に出ていないため、この宇宙船を見るのが初めてなのだ。


「来てしまいましたわね」


「マスター、ご命令を」


 全員がブルースを見つめるが、もちろんブルースには対処できるはずがない。


★☆天界☆★

「うわっ! 来ちゃったよー! どうしよう、どうするのよブルース!」


 天界では女神が慌てふためき、男神は面白そうにもやに映された映像を見ている。


「技術的には女性型重装歩兵アンドロイドが一番近いけど、それでも無理だろうね」


「なに冷静に負けを認めてるのよ! 何か方法はないの!? こう、起死回生の手とかさ!」


「そう言ってもね、戦力差があり過ぎるだろう?」


「だーかーらー! 何か手はないかって聞いてんのよ!」


「何か、か……そうだね」


「なになに? やっぱりあるんじゃない、早く言いなさいよ!」


「僕達は第十ランク世界の住民に襲われて、負けるのかい?」


「え? いくら神の予備軍が生まれる世界でも、私達が世界を滅ぼせば終わりじゃない」


「そういう事だよ」


「だって私は神様なのよ!?」


「世界ランクが一つ変わるっていう事は、手も足も出ない程の差があるって事なのさ」


「だって、それじゃあ……」


「ああ、ブルース達に勝ち目はない」


☆★地上★☆

「はっはっはっは! 見ろあの間抜けな顔! 船を見てビビってるぞ!」


『うっわ隊長人が悪いっすね~』


『そりゃ隊長だってストレスは溜まるだろう』


『あ、オレンジ髪の子がいる、やっぱり可愛いな~』


『え? お前あんなババアが良いのか? 俺は緑髪の子が良いな』


『バカ共が、見た目は近くても原始人だぞ』


『アンドロイドってアレか? なんだよいい女じゃん』


『『「それはない」』』


 随分とのんきに会話をしているが、絶対に負ける事は無いという自信の表れだろうか。

 気が付くとブルース達は家から出てきており、五人は空を見上げている。


「なんだなんだ、諦めて素直に殺されに来たのか? なら殺してやるよ!」


 船の右方向から小さなレンズが現れ、下を向く。

 

「死ね!」


 隊長がトリガーを引こうとした瞬間、モニター一杯に巨大な鳥が映し出された。


「うわああ! こいつ、こいつはー!」


 トリガーを引くどころかレバーを引いてしまったのか、船体は大きく傾きレーザーは地面ではなく空に向けて発射され、雲を切り裂いて飛んでいった。


『ちょっ!? 隊長どうしたんすか!』


『いてぇ……』


 どうやら艦載機に乗っていたパイロット達は、衝撃であちこちをぶつけたようだ。


『でも本当に鳥がいたんだな』


『おっきい鳥だったね!』


「くそっ! 今度は外さない!」


 船体を立て直し、今度こそ間違いなくブルース達へ向けてレーザーが発射された。


『さようならオレンジの子、僕は他の子を探すよ』


 レーザーは真っ直ぐブルース達へと進みそして……消えた。


「……え? なんで消えたんだ?」


『隊長? 出力を間違えていませんか?』


「いや、出力は五十%だ、この街くらいなら軽く飛ばせるはずだ」


『じゃあ何でっすか?』


 実はレーザーが発射される直前、オレンジーナは腕輪を空へ向けて投げていたのだ。

 その腕輪は≪クーダーバハの箱≫と呼ばれる聖遺物で、元々の使い方は装着者の姿が見えなくなる、という物だ。


「間に合ったわね」


「お姉様、あの腕輪は以前お借りした物ですの?」


「ええ、アレはこことは少しずれた場所へと入る物なの。だからあの攻撃を、こことは少しずれた場所へと向かわせたのよ」


 どうやら聖遺物の詳細を理解しているようだが、聖具保管者サクリスタンとは言ってもそこまで理解していただろうか。


「ブルース、シルバー、直接的な攻撃は私では無理。だから……お願い」


「うん、まかせて姉さん」


 黒いパワードスーツを纏い、大量のレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスが召喚された。

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