103.蘇生、開始
「あっ……そこ、そこよブルース、もっと、もっと奥までちょうだい!」
「ねっ、姉さん! 僕これ以上は……!」
「ダメよブルー! もっと力いっぱいねじ込んで!!」
「姉さん姉さん! 僕これ以上は……!」
「何をなさっていますの? 二人とも」
居間のソファーでうつ伏せになるオレンジーナに
力いっぱい親指を腰に押し付けているようで、親指の先が腰にめり込むほど食い込んでいる。
「エメ、僕と代わって! これ以上は僕の親指が!」
「ちょっとブルー? エメの細腕に指圧をさせるつもりなの?」
「そうですよお兄様。ジーナ姉様が満足できるまで指圧をしたら、私の親指は折れてしまいますわ」
「ううっ……シアンは平気なのに……」
「ちょっとブルー? それはどういう意味かしら、シアンは若いから指圧の必要はないとでも言いたいのかしら?」
「そ、そんなこと言ってないよ!」
「お兄様諦めて下さいまし。姉様とシアンのお陰でローザは無事だったのですから」
「うん、それはとっても感謝してる。でも僕の親指が……」
エメラルダに見せたブルースの親指は、指圧をし過ぎたせいか手首につきそうなほどに反り返っていた。
そもそも指圧が必要になった理由はローザを蘇生させたことだ。
遺跡調査から帰った日、遺跡での情報をシルバーに渡すとローザの治療方法が判明した。
だがその治療方法はとても荒々しいものだったのだ。
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「それでは始めましょう」
「やるんだな、ダナ!」
「ではフィールド展開し無菌領域を作ります。保存液・試験管及び、ローザの立体映像を作成します」
ローザを覆っていた氷の塊が溶け始め、服を脱がしてベッドに寝かされる。
慎重に刃物を使って開胸すると、ろっ骨を順番に切っていく。
すでに血流は止まっているため出血は最小限だが、ついさっきまで動いていた体は生々しい。
「シルバー、どれだかわかる?」
「申し訳ありません、どのセンサーにも反応がありません」
「じゃあ順番に調べるしかないんだな、ダナ」
そう言ってシアンはローザの体に手を突っ込むと、心臓を掴んであちこちを触り始める。
「あ……コレかな? カナ?」
心臓に繋がる太い血管をつまみ、少し力を入れると軽い抵抗の後で潰れる。
「反応あり。情報通りに
「ならこれで他の栓の位置はわからないかしら」
「今情報をまとめています……完了しました。栓の位置を表示します」
ローザの立体映像のあちこちに光点が付く。
どうやらソコに栓があるようだ。
「いちにぃさん……何個あるのかな、カナ?」
「一つは破壊したので、残り九十九カ所です」
「はぁ。まさか魔法を使った武器だとは思わなかったわね」
ローザを攻撃した銃、それは船内や閉所で使われる武器の一つで、外傷を負わせる事なく相手を殺すための魔法武器だった。
技術の進歩した文明が魔法を使うとは思わなかったが、元々魔法が存在する文明のようで、そこに化学が入り込んだのだ。
科学技術の方が便利なので進化したが、魔法が滅んだわけではないようだ。
「じゃあ続けましょうか。シルバーは頭をお願いするわ、私とシアンはそれ以外をしましょう」
「わかりました」
「わかったんだな、ダナ」
シルバーはローザの頭側に回ると指先を額に当て、極小レーザーで頭の分解を始める。
シアンとオレンジーナは腹部まで切り開くと、臓器を取り出し始めた。
船内を汚さないように殺害する兵器は、人体の中に栓を作り、血流や神経を止める事で死に至らしめる武器だったようだ。
その栓の魔力は対象が死んでも残るため、蘇生を試みても蘇生する事は無い。
いやひょっとしたら一瞬だけ蘇生するかもしれない、しかしその瞬間に死んでしまうのだ。
もしも一瞬でも蘇生した場合、ローザは一体何度死んだのだろうか。
手術は四日間続いた。
そのあいだ三人は休むことなく、食事すら摂らなかった。
シアンとオレンジーナが部屋から出てきたのは五日目の夜だった。
前日にはシルバーが出てきたのだが、ブルースが急いで食事を持っていくも二人は泥のように眠っていた。
そして。
「ローザ……? ローザが……息をしてる……温かい……ローザ……ローザー!」
ベッドで眠るローザの手を握りしめ、声にならない声で泣きじゃくった。
オレンジーナとシアンも一度目を覚ますが、泣きながら喜ぶブルースを見て、再び深い眠りについた。
ローザの蘇生が成功した二日目、目を覚ましてスープや柔らかい物を沢山食べ、そして風呂に入るオレンジーナとシアン。
シアンはまだ疲れが取れないので寝ているが、オレンジーナはブルースに指圧をしてもらっていた。
「ローザの様子はどうだった? エメ」
「まだ目覚めませんわ。大手術だったんですもの、すぐには目覚めませんわよ」
「そーよー? 大変だったんだから。だからブルー? し・あ・つ」
シルバーがずっとローザの側で様子を見ているので、特に心配はしていないようだ。
それでもローザの側にいたい欲求があり、早く指圧を終わらせたくて仕方がないのだろう。
ちょうどその頃、大気圏に侵入してくる大きな物体があった。
「対象の位置を確認、今度は手加減の必要はないから、仲間と思われる相手も巻き添えにして対処しろ」
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