85.ファランクス:女性型重装歩兵アンドロイド

 黒く長い髪をなびかせた背の高い女性が現れた。

 まるで軍服の様な黒い服装で、目つきは厳しくブルースの前で片膝を付いた。


「マスター、ご命令を」


 身長は百九十センチ以上もありスタイルも良いので、ブルースの前で膝を付いても大きいのがわかる。

 だが流石のブルースもこの状況には困っていた。


 だがこの女性はブルースが何も言わない事を勘違いをしたようだ。


female-alone女性型単独-Heavy armed-numberX重武装兵器ナンバーテン、通称FALHANXファランクス、殲滅対象をご指定下さい」


「ぶっ、ブルー君ブルー君! 何この女の人! なんか怖い事言ってるよ!?」


 ローザが女性型重装歩兵アンドロイドファランクスを見てビビッているが、まあそれも仕方がないだろう。

 少なくとも人間だと思っているし、美しい女性の口から恐ろしい言葉が出ているのだから。


「大丈夫……のはずだよローザ。えっとね、君には名前はあるの?」


「私はfemale-alone女性型単独-Heavy armed-numberX重武装兵器ナンバーテン、通称FALHANXファランクスです」


「あー、うん、わかったよ、後で名前をつけるね」


 女性型重装歩兵アンドロイドファランクスは不思議そうな顔をしているが、それで任務が与えられるならそれでいいと思っているようだ。


「マスター、ご命令を」


「ああそうだったね。じゃあ王都の外にいるモンスターを排除してくれる?」


「了解しました。マスター、上空のドローンをお借りしてもよろしいでしょうか」


「いいよ」


「ありがとうございます。では」


 一礼して少しかがむと高くジャンプをした。

 高すぎるジャンプだが、上空でレーザーを撃っているレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスの上に乗る。


 するとどうだろう、レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスが縦に分かれて左右に広がり、その間に女性型重装歩兵アンドロイドファランクスが入り込む。


 するとまるで外部ブースターの様に女性型重装歩兵アンドロイドファランクスの背中に固定され、プロペラはジェット噴射になり、手には大型レーザーライフルが握られていた。


 四方から襲い掛かる一方に照準を合わせると、先頭集団にレーザーを発射した。

 そのレーザーは大型ライフルとはいえ太過ぎた。

 十メートルはありそうな幅のレーザーが先頭から最後尾まで照射され、その余波で半径百メートルは吹き飛んでしまった。


 それを残りの三方向にも行うと、モンスターの影は全くなくなってしまった。


 任務を完了し、そのままブルースの元に帰るとレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスを解除し、ドローンは姿を消した。


「マスター、任務完了しました」


「……あ、ああ、お、お疲れ様?」


 誰もが驚いて動けなかった。

 三貴族たちだが、回復能力に特化した改造をされており、頭が残っていれば体の再生が可能という、本来ならば恐ろしい相手だった。

 それが跡形もなく消滅してしまった。


「次の目標を指定してください」


「え? もういないから休んでていいよ」


「了解しました。待機モードに入ります」


 表面上は全く人間と変わらないのだが、ブルースは頭では理解できていても、これが作りものだとはとても思えなかった。


「ブルー? この方はお知り合いかしら?」


「姉さん、えっと、なんていえばいいかな……」


 ブルースが悩んでいると、アンドロイドが替わりに返事をした。


「私はFALHANXファランクス、マスター・ブルースの部下です」


 軍隊で使われているので、隊長をマスターと呼び命令に従うようだ。

 その説明を受け、ブルース組はある程度は理解したのだが、クロスボーダー教の五人はさっぱりだ。


「と、とりあえず終わったみたいだから、僕達は家に帰るよ!」


 王子達がいないのをいい事に、そそくさとその場を逃げ去るブルース達。

 五人+一台が家に着き、慌てて中に入って扉を閉める。


「ブルーお兄様? この方はその、そういう事なのですわね?」


「うん、そう。五つ目のファランクス」


 全員がアンドロイドを見るが、どう見ても人間にしか見えない。

 しゃべり方も動きも、何もかもが人間だ。


「マスター、なにかご命令が?」


「え? ううん何でもない。そういえば君は他のファランクスとは違って消えないんだね」


「はい。他のファランクスは必要時に具現化されますが、私はマスターの部下として現れました。なのでずっとご一緒致します」


「ちょっと待ったー!」


 ローザがブルースとアンドロイドの間に割って入る。


「ずっと一緒って、まさかあなたもブルー君を狙ってるの!?」


「はい、私はマスターと常に行動を共にします」


「そ、それは姉としても看過かんかできないわね」


「妹としてもです!」


「あの、みんな? しっかり説明するからリビングにいこう?」


 お茶を飲みながら、ゆっくりとブルースがアンドロイドの説明をする。

 中々信じてくれなかったが、黒い戦闘服を脱ぐことで理解してくれたようだ。

 

 服の中から金属の体が現れ、装甲の隙間からはワイヤー式の筋肉が見える。

 ようやく人間ではないと理解したようだ。

 ちなみにシアンはオレンジーナに抱っこされて眠っている。


「えっと、じゃああなたはブルー君と……その……あの……」


「あなたが思うような行為は不可能です」


「そうなんだ! なぁ~んだ、心配しちゃったじゃない」


「しかし、アンドロイドが良いという男性もいると、聞いた事があります」


 話がややこしくなり、話合い(?)は夜まで続いた。

 食事を取らないアンドロイドを不思議な目で見ているが、これ以上話を続けても意味がないと悟ったようだ。


「じゃあ名前はどうしようか」


「マスターにお任せいたします」


「そう言われても……」


 ふと女性型重装歩兵アンドロイドファランクスの黒く長い髪を見ると、光に照らされてキラキラ光って見えた。

 髪をよく見ると少し青みがかっているが、黒い髪が銀色の粉を散りばめた様に輝いていた。


「シルバーではどう?」


「シルバー、了解しました。今後はシルバーと名乗ります。マスター、ありがとうございます」

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